○安衛法と仲良くなる土木工事・土止め支保工

飛来や崩壊災害による危険の防止

地山の掘削などの穴を掘る作業につきまとう危険は、土砂崩れなどです。

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元々地中で安定しているところを無理やり、掘りこじ開けるわけですから、地盤が不安定になるのは仕方がありません。

土砂崩れに対しては、土止め支保工などの対策を別の記事で紹介したので、合わせてご覧頂ければと思いますが、掘削作業では他にも危険があります。

以前の記事はこちら。
掘削作業等での安全対策について

土止め先行工法のガイドライン

地山掘削作業の時の土砂崩れ防止

まずは、土石の落下です。
掘削していると、土壁から石や岩が顔を出していることがあります。
これらの石などは、時として人間の頭くらいの大きさや、それ以上のものがあったりします。

そういった石が、穴の底で作業している時に落下していきたら、とても危険ですよね。

石以外にも、土の塊が浮いていたりすることもあります。
土は塊になると、とんでもなく重量になります。
落ちてくると、石と同じくらいの衝撃になるのです。

このような土石も掘削作業時には注意しなければなりません。

掘削は、上から下に掘る明かり掘り以外の方法もあります。
それは、水平に掘る方法です。
トンネルや推進工法などは、水平に掘っていきます。

水平に掘る場合時には、明かり掘りとは違う危険が伴います。
ぐるっと360°土に囲われているのです。両サイドだけでなく天井も土です。
天井も土があると、落盤の危険があるのです。

トンネル工事の際の落盤事故は、逃げ場所がないこともあり、非常に危険です。
そのため、トンネル工事では、落盤への対策が最重要といえます。

このように掘削作業では、土壁や地盤の崩壊や土石の落下などの危険が常に付きまとうのです。

土砂崩れや落盤などは、大きなカテゴリで捉えると、「上から降ってくる」事故です。

「上から降ってくる」事故は、物体自体の重さに、落下のスピードが加わり、かなりのエネルギーになっています。
そのようなものが人間にぶつかるとなると、小石程度であっても悶絶しますし、ソフトボール大の大きさになると、打ちどころによっては致命傷になりかねません。

このような事故防止のために、安衛則では注意し、守らなければならない規定をまとめているのです。

【安衛則】

第2節 飛来崩壊災害による危険の防止

(地山の崩壊等による危険の防止)
第534条
事業者は、地山の崩壊又は土石の落下により労働者に危険を
及ぼすおそれのあるときは、当該危険を防止するため、
次の措置を講じなければならない。

  1)地山を安全なこう配とし、落下のおそれのある土石を
   取り除き、又は擁壁、土止め支保工等を設けること。

  2)地山の崩壊又は土石の落下の原因となる雨水、地下水等を
   排除すること。

(落盤等による危険の防止)
第535条
事業者は、坑内における落盤、肌落ち又は側壁の崩壊により 労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、支保工を設け、 浮石を取り除く等当該危険を防止するための措置を 講じなければならない。

地山の掘削を行う場合に、最も注意しなければならないことは、土砂崩れです。
たった1メートル、2メートル掘るだけでも、土壁が崩れ落ち、中にいる作業者たちを飲み込んでしまうことがあります。

土砂崩れでは、人の腰の高さまで覆われると、死亡に至ってしまうそうです。

また土の塊がごっそり落ちてきて、ぶつかるということもあります。

深く掘らなくとも、土砂崩れは起こりますし、土砂崩れによる被害も小さくないのです。

その対策としては、崩れないように掘ること、そして崩壊を防ぐというものがあります。

まず、崩れないように掘ることとしては、安全な勾配をつけて掘ることです。

明かり掘りを手掘りで行う場合は、普通の土質であれば、2メートル以下ならば90°以下とし、5メートル以下ならば75°以下、5メートルを超える場合であれば60°以下の勾配とするという規定があります。

また発破や砂質土の場合はもっと低く、緩い角度としますね。

土壁が垂直に近れば、土の塊や岩石がボトンと落下しますが、緩い角度であれば、コロコロと転がります。
落下の衝撃は、転がるほうが小さくなるのです。

ただし勾配をつけた場合、1つデメリットもあります。
それは、掘る面積が広くなることです。

勾配を付けた掘り方は、地上を下辺、穴の底を上辺とする、ひっくり返った台形の形になります。
穴の底の幅を1メートルとしたいとなると、地上部は2メートルやそれ以上の幅で掘る必要があるのです。

これは交通量の多い都会の道路などでは、不適ですね。

限られた範囲を垂直に掘ることが求められます。

そんな時には、土止め支保工を行います。
土止め支保工は、土壁の前に壁を作り、これで押え、土砂崩壊を防ぐものです。

土止め支保工については、別の記事で書いておりますので、割愛しますが、土砂崩壊には有効な方法です。

さて、崩壊の原因は、掘り方や掘削勾配だけではありません。
その他、水も関わってきます。

具体的には、雨と地下水です。
土に水がしみ込むと、ドロドロになりますよね。
これは地表だけでなく、地中でも同じことが起こります。

雨が降ると地表から浸透し地盤を緩くします。
地下水が高いと、地中の土に水が染み渡った状態になり、緩くなるのです。
水の排除も地盤崩壊を防ぐのに大切です。

具体的な方法としては、掘削穴に溜まった雨水や、染み出してきた地下水は、水中ポンプで外に排出します。
地下水が高い場合は、掘削箇所の近くに井戸を掘り、その井戸に水中ポンプを設置して、吸い上げます。ウェル工法やディープウェル工法などとよばれる排水方法です。

これらを駆使して、土砂崩壊の原因となる水を排除するのです。

その他、掘削や土止め支保工などに際しては、作業主任者を選任する必要があります。
また作業前や悪天候後には、必ず掘削箇所や周辺の地山の点検も行うので、これらと合わせて、土砂崩壊を防止する必要がありますね。

さて、土砂崩壊は明かり掘りだけではありません。
トンネルなど、水平に掘削する場合も起こります。
しかもこの時に注意しなければならないのが、落盤、つまり天井の土が崩れることです。

トンネル内での作業は、上下左右を土に囲まれています。
土砂崩れのリスクは、明かり掘りよりも遥かに高いと言えます。

しかもトンネル内なので、いざ落盤事故が起こったとしても、簡単に逃げられません。
事故発生は、すなわち死に直結するともいえます。

そのため、落盤などの土砂崩壊防止対策は、非常に大切です。

トンネルなどでは、左右の土壁だけでなく、天井部も含めた支保工、ずい道支保工を行います。

ずい道支保工については、ずい道等の掘削等作業主任者を選任し、指揮をとらせます。
全作業者の命に関わることなので、作業主任者は責任重大なのです。

またずい道内での作業は、常に危険がないかをチェックしながら作業することが大切です。
そのため毎日作業前には、き裂、浮石、湧水、含水、ガスの有無などを確認します。

もし少しでも何か異常があれば、直ちに処置が必要になります。
放置していたら、後々大問題になるということもよくあることですので、見つけたら直ちにが大切なことなのです。

掘削に関わると、掘った箇所での土砂崩れや落石などの危険がありますが、これらは危険は掘削作業だけに留まりません。

上から物が崩れてくる、落ちてくるという事故は、高所での作業、特に建物の解体などではつきものと言えます。

そのような、飛来・落下の事故の防止についても、規定があります。

(高所からの物体投下による危険の防止)
第536条
事業者は、3メートル以上の高所から物体を投下するときは、
適当な投下設備を設け、監視人を置く等労働者の危険を
防止するための措置を講じなければならない。

2 労働者は、前項の規定による措置が講じられていないときは、
  3メートル以上の高所から物体を投下してはならない。

(物体の落下による危険の防止)
第537条
事業者は、作業のため物体が落下することにより、労働者に
危険を及ぼすおそれのあるときは、防網の設備を設け、
立入区域を設定する等当該危険を防止するための措置を
講じなければならない。
(物体の飛来による危険の防止)
第538条
事業者は、作業のため物体が飛来することにより労働者に危険を 及ぼすおそれのあるときは、飛来防止の設備を設け、労働者に 保護具を使用させる等当該危険を防止するための措置を 講じなければならない。
(保護帽の着用)
第539条
事業者は、船台の附近、高層建築場等の場所で、その上方に
おいて他の労働者が作業を行なっているところにおいて作業を
行なうときは、物体の飛来又は落下による労働者の危険を
防止するため、当該作業に従事する労働者に保護帽を
着用させなければならない。

2 前項の作業に従事する労働者は、同項の保護帽を
  着用しなければならない。

建物の建築や解体では、不要になった材料や撤去物などを地上に降ろさなければなりません。

地上に降ろす場合、ただ放り投げていたら危険ですよね。
地上でも作業している人がいるのですから、この人たちにぶつかってしまいます。

物を落とす、降ろすという作業。
簡単な事なのですが、実は危険を伴っているのです。

ではどうのようにすればよいのか。
全部手で持って運べばいいのか?
それともクレーンなどでまとめて下ろせばいいのか?

どちらも効率的ではありません。

やはり、ある程度は投下させるのが楽です。

そのため、適切な投下設備を備える必要があるのです。

投下設備とは、簡単な例をあげると、滑り台のようなものがあります。
滑り台に荷物を載せて、滑り降ろすのです。
これだと、頭の上に物体が降ってくることはありませんね。
とはいえ、滑り台の下に、投下したものがたまるので、適度に片付ける必要はありますが、これは作業分担されているでしょう。

他にも例があるでしょうが、投下設備としては、このようなものがあります。

しかし、投下設備を設けることができない現場もあります。
その場合は、監視人を置きます。

監視人は、投下される付近に人が入らないように、見張らなければなりません。

3メートル以上の高さから、物を投下する場合は、投下設備または監視人を置きます。

投下設備などを設置すると、全員がこの場所は上から物が落ちてくるということが分かっている場所です。
余程の事がない限り、投下位置の真下にいることはないでしょう。
仮にその範囲に入ったとしても、監視人や投下しようとする人が気づいて、注意します。

しかし投下場所以外でも、上方で作業している限り、何かしら落下してくる可能性はあります。

下で作業していたら、落下物にぶつかったなんてことも、起こるのです。

これを防ぐために、防網やメッシュシートなど、落下させない設備を設ける、または上で作業している箇所については、立入禁止とするなどの措置を取ります。

つまり上方では落とさない設備を、地上部では立ち入らない箇所を設けるのです。

街中のビルの工事で、ビルの周りに足場が組まれているのを見かけることがあると思います。
この足場は、シートで覆われていたりします。
このシートは、足場から物が落ちないようにするためのものなのです。

作業しているすぐ側を歩行者がいるのですから、落下物が歩行者にぶつけないためにも、このシートは必須なのです。

さて、落下を防ぐ設備や立入禁止措置などをとっても、100%落下物を防げるとは限りません。
大きい物はともかく、小さなものはパラパラと落ちてくることもあります。

そういった落下物を防ぐために、作業者は保護帽、つまりヘルメットを着用しなければなりません。

工事現場では、落下物の有無に限らず、必ず保護帽は被らなければなりません。
もし被らずに入場しようものなら、追い出されても、文句は言えないでしょう。

保護帽は、飛来・落下防止用なので、中に発泡スチロールの衝撃吸収ライナーは求められていません。
しかし、高所で作業するとなると、ライナーは必要なので、兼用の保護帽を被るのがいいですね。

保護帽には使用期限がありますので、定期的に交換するようにしましょう。
傷がなくとも、製造されてから3年で劣化して、本来の機能が出せなくなるので、交換するとよいです。

掘削や解体作業では、崩壊や落下の事故が隣り合わせです。
常にこれらの危険がある中で、作業するのですから、対策は万全でなければなりません。

土止め支保工や投下設備などの仮設設備は、本流の仕事ではありませんが、安全に作業を進めていくためには、非常に大切なのです。

これを疎かにしていると、事故になり、作業そのものがストップしてしまうのです。

冬場は、建設業は繁忙期になります。
忙しい時こそ、きちんと安全対策をとって、作業したいものですね。

まとめ。

【安衛則】

第534条
地山の崩壊又は土石の落下の危険を防止するため、措置を講じなければならない。
第535条
坑内における落盤、肌落ち又は側壁の崩壊の危険がある場合は、支保工を設け、 浮石を取り除く等当該危険を防止するための措置を講じなければならない。
第536条
3メートル以上の高所から物体を投下するときは、適当な投下設備を設け、監視人を置く等の措置を講じなければならない。
第537条
作業のため物体が落下の危険がある場合は、防網の設備を設け、立入区域を設定する等当該危険を防止するための措置を講じなければならない。
第538条
作業のため物体が飛来する危険がある場合は、飛来防止の設備を設け、労働者に 保護具を使用させる等の措置を講じなければならない。
第539条
船台の附近、高層建築場等の場所で、物体の飛来又は落下による危険を防止するため、労働者に保護帽を着用させなければならない。