○コラム

労災かくしの方がデメリットが多い

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事故を回避しようとしても、全て防げるわけではありません。
どうしても、事故を防ぎきれず、時として、大きな事故になってしまいます。

事故事例では、様々な状況で起こった事故を取り上げています。

事例で取り上げているものは、比較的大きな事故であるため、被災者は亡くなったり、負傷しています。負傷も軽微なものではなく、少なくとも4日以上の休業を必要とする、大きな負傷です。

仕事の時に、事故が起こったら、被災者を病院に連れて行きます。
この時、会社によっては、業務上の怪我であることを伏せるケースがあるのです。
あくまでも、個人的なプライベートでの怪我と申告するのです。

また病院にだけでなく、負傷者がいるにも関わらず、労働基準監督署に報告しないこともあります。

これらは、労災かくしと言われます。

厚生労働省では、「労災かくしは犯罪です」というポスターやパンフレットを作って、周知しているので、どこかで目にしたことはあるかもしれません。

実に、この労災かくしは、少なくないようなのです。

昨年末には、次のような記事がありました。

労災かくしで6人送検――加古川労基署

兵庫・加古川労働基準監督署(田中隆一署長)は、労働者死傷病報告を速やかに提出しなかった1次下請の社員ら計6人を労働安全衛生法第100条(報告等)違反の容疑で神戸地検に書類送検した。

労働者が工事現場内で右手靭帯を断裂し約8カ月間休業する労働災害が発生したものの、1、2次下請が共謀して隠ぺいしていた。同労基署管内の建設業では労災発生件数は減っているものの、重篤な災害や労災かくしに対しては厳しく対処する方針である。

労働新聞 2014年12月22日 第2998号

兵庫県で、労災かくしを行っていた事業者を、書類送検したという記事です。

事故があったら、報告しなければなりません。

どのような時に、どのような報告を行うのかについては、以前記事を書いているので、参考にしてください。

事故があったら報告する

記事でも、安衛法第100条(報告等)の違反とあります。

第100条は、次のとおりです。

(報告等)
第100条
厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、
この法律を施行するため必要があると認めるときは、
厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、
建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、
又は出頭を命ずることができる。

2 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、
  この法律を施行するため必要があると認めるときは、
  厚生労働省令で定めるところにより、登録製造時等検査機関等に対し、
  必要な事項を報告させることができる。

3 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると
  認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、
  又は出頭を命ずることができる。

必要事項を提出しなさいという内容です。

この必要事項には、事故報告が含まれるのです。

負傷者については、安衛則第97条に規定されています。

(労働者死傷病報告)
第97条
事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内
若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒に
より死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第23号に
よる報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

2 前項の場合において、休業の日数が4日に満たないときは、
  事業者は、同項の規定にかかわらず、1月から3月まで、
  4月から6月まで、7月から9月まで及び10月から12月までの
  期間における当該事実について、様式第24号による報告書を
  それぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、
  所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

右手靭帯断裂で、8ヶ月もの間休業を必要としたのですから、相当大きな事故であったとはずです。

休業が4日以上ですので、労働基準監督署に事故報告を、「遅滞なく」出さなければなりません。

この報告を行っていなかったことが、問題なのです。

なぜ、報告を行わなかったのか?

この背景には、色々ありそうですが、大きな要因としては、2つありそうです。

それは、「手続き方法を知らなかった」ということ。
そして、こちらの方が大きいでしょうが、「会社にとって労災報告には、デメリットがある」ことでしょう。

まず、「手続き方法を知らなかった」ことについです。

労災保険が適用されるのは、休業4日以上からです。
そのため、労災での死傷報告は、休業4日を境に、提出時期が異なります。
休業4日異常の場合は、遅滞なく、つまりすぐに提出しなければなりません。
しかし3日以下であれば、4半期ごとにまとめて提出なのです。

事業者がこれらの区分を知らなかったら、そもそも報告できません。
また書類についても、様式が決まっており、あれこれ書くので、わからーんと匙を投げてしまうケースも少なくないようです。

報告書類は、自分でやると大変ですが、社労士に委託すると、作成してくれます。

ここまでの手続きを行わなかったこと、手続きについて知らなかったことが、提出しない原因になります。

しかし、多くの会社では、社労士と付き合いはあるでしょうから、言い訳になりませんが。

もう1つは、「会社にとって労災報告には、デメリットがある」です。

労災保険を適用し、報告することは、会社にとって、あまり嬉しくないことがあります。
これがあるために、意図的に労災報告をしないというのがあるようです。

まず、覚えておいて欲しいのは、労働時の負傷では、健康保険は使用しないということです。

健康保険は、一人一人が保険料を掛けるものです。
つまり自分自身のための保険です。

労働災害は、仕事の時の負傷なので、その責任は使用者、つまり会社にあります。
会社に責任がある状況での負傷なので、個人個人が負担している保険を使うのは、少々お門違いなのです。
負担すべきは会社側になるのです。

労災は、健康保険ではなく、会社の労災保険を使用する。
これが、労災かくしの背景にありそうです。

なぜでしょうか?

次のようなことがあるからです。

1.保険料が上がる。
 
車の保険でも、長年無事故であれば、保険料は安くなりますね。
逆に事故を起こし、保険を使用すると、次からは保険料は値上げします。
労災保険も同じなのです。
労災保険の負担は、結構馬鹿になりません。
これが値上がりしてしまうと、財政負担が大きくなるので、なるべくならば値上げしたくないのが、経営者としては本音なのです。

2.保険料をごまかしている。

労災保険を安くするために、従業員数を少なく申告しているなど、本来負担すべき費用を払っていない場合です。
資金繰りが苦しい時などは、できるだけ節約したいので、保険料も節約されてしまいます。
労災保険を適用したり、労働基準監督署に報告したら、ごまかしがバレるので、隠したいわけですね。

3.労災に入っていない。

これも保険料のごまかしと同じ類ですが、加入は義務付けられているので、これ自体が法に抵触しています。

4.社会的ダメージ
 
事故を起こすと、会社の信用に関わります。

建設業であれば、自治体から指名停止処分などがあり、仕事ができなくなります。
工場なのであれば、改善するまで、操業が休止するなどがあります。

また、危険な作業をしているところは、信用ならないとして、取引が停止されることもあります。

時には、治療費を負担するから、労災じゃないことにしておいてと、持ちかけるケースもあるようです。

労災を報告しないことは、会社を守るためという判断もあるのでしょうけども、バレた時のダメージは、この何倍にもなるのです。

5.派遣や下請けには労災は適用しない

このように思っている経営者もいるかもしれませんが、これは違います。
元方事業者は、その場で働いている人全ての責任を負っているのです。

兵庫での事例も、1次下請、2次下請は、報告義務がないと考えたのかもしれません。

自社工場で働いていたら、下請けだろうと派遣社員だろうと、自社の正社員と同様に扱う必要があります。

事故にあったら、報告するのも義務です。

労災保険についても、派遣社員でも一定の条件を満たした場合は、加入が義務付けられています。

全て、使用者(会社・事業者)の責務になることですので、必ず確認しましょう。

以上のような理由が、労災かくしの背景にありそうです。

労災かくしですが、発覚すると、記事のように、労働基準監督署の操作が入り、送検されます。
送検されたら、検事による操作、裁判となります。

そして、労働災害補償保険法において、報告を怠り、また虚偽の報告をした場合は、50万円以下の罰金が科せられます。また、違反した担当者のみならず、会社の代表者、代理人も同じ罰金刑を科せられます。

当然会社が被るダメージは、罰金どころの騒ぎではありませんね。

取引先から信用をなくす、銀行から信用をなくす、社員から信用をなくす、下手をすると、会社そのものがなくなります。

一時切り抜けられたかのように思うかもしれませんが、その後がとんでもない結果をもたらします。

「あの時、きちんと報告しておけば」
そう思っても、後の祭り。どうしようもありません。

労働基準監督署も、労災かくしには厳しく対応します。
隠し切れませんし、隠すことでのデメリットのほうが大きいのです。

とはいえ、何より大切なのは、事故を起こさないことです。

保険料を上げないのも、事故を起こさなければよいのです。
労働者の安全意識を高め、徹底するのが、一番の節約なのです。

労災が起こらなければ、隠す必要はありません。

まずは、事故を起こさない体制づくり。
これが一番、大切なことですね。

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