○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

兎耳長、タラップより回り降る

entry-633

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第85話「兎耳長、タラップより回り降る 」
猫井川は自分が担当していた工事が無事終わり、しばらくぶりに犬尾沢の現場に行くことになりました。
次に担当する工事も決まっているのですが、今のところやることはなさそうです。
現場に向かうと、保楠田と兎耳長が準備を始めていました。

「お、猫ちゃん。前の現場は全部終わったんだね。」

保楠田が話しかけてきました。保楠田は最後の舗装作業は離れましたが、鼠川と一緒にずっと猫井川の現場をやっていたのでした。

「ようやく全部終わりましたよ。
 ダメ回りとか手直しがそんなにたくさんなくて良かったです。」

「そうだね。全部終わると、一安心だよね。
 でも、また今度も別の現場やるんでしょ?」

「ええ、何か野虎さんと犬尾沢さんがそんな話をしていました。
 細かい話はまださっぱりなんですけども。」

「そうか。その現場も行くと思うから、しっかりしきってくれよ。
 これからは現場の管理も増えてくるだろうね。」

「どうなんですかね。現場で作業しているだけのほうが、気は楽ですけど。
 保楠田さんは、管理はやらないんですか?」

「おれは職人だから、そういうのは苦手でね。
 だからそういうのは今後、猫ちゃんに任せるよ。」

「はぁ。俺も得意ではないんですけど。
 今回のも必死にやっていただけですから。」

「ちゃんとやりとりできてたと思うよ。おれが前やった時は、元請けを怒らせてしまったもん。
 野虎さんの感じからすると、うまいことやっていたと思うよ。」

「そんなもんですかね。
 でも怒らせたって何やったんですか?」

「まあ、どうも合わなくてね。」

「そうですか。
 俺は野虎さんが優しかったので、やりやすかったです。

 ところで、兎耳長さんも管理とかはやらないんですか?」

猫井川は黙々と準備をすすめる兎耳長を見ながら言いました。
兎耳長は聞こえていないのか、ノーリアクションのままです。

その様子を見て、保楠田が、

「まあ、こんな感じだからさ。」

とつぶやきました。

「なるほど。」

猫井川も同意したのでした。

今日の作業は、建物コンクリート打ちのための型枠組です。
かなり広範囲にコンクリートを打ち込むため、型枠も一筋縄ではいきません。
支持金具も数多くあるのでした。

そんな中、作業内容を犬尾沢がメンバーに指示します。
 
「・・・猫井川と兎耳長さんは、型枠支持のパイプサポートを運んでくれ。
 今回は天井スラブを打ち込むから、型枠をしっかり支えなければならないからな。」

そう指示を受けた猫井川と兎耳長はトラックに向かい、荷台に載せられたパイプサポート を取りに行きました。 パイプサポートは荷台に山と積まれています。

「どれくらい必要ですかね。」

猫井川は兎耳長に尋ねました。

「うーん、とりあえずいっぱい運べばいいんじゃないかな。
 あまったら置いとけばいいわけだし。」

「そうですね。とりあえず運べるだけ運びましょうか。」

そう言うと2、3本のサポートを抱え、運び始めたのでした。

持っていく先の建物までは、途中1メートルほどの段差を下りなくてはなりません。
段差には、仮設で数段の階段が設けられていますが、両手に荷物を抱えている2人はに大きな障害です。

「足元が見えに行くにくいから注意しないと。
 兎耳長さんも気をつけてくださいね。」

大声で伝える猫井川の言葉に、かすかにうなずく兎耳長なのでした。
2人は順に1歩ずつ確かめるように階段を下りていったのでした。

パイプサポートを運ぶこと数回。
2人はかなりの汗もかいてきました。

兎耳長が何度目かのパイプサポートを運ぶため、階段に差し掛かった時でした。

兎耳長が階段のステップに足を下ろした時、ステップが浮き上がってしまったのです。
足を滑らせ、バランスを崩す兎耳長。

そのまま数段のステップを尻もちをつき落ちると思った時、兎耳長の体はくるりと一回転し、地表な上に降り立ったのでした。
手にはパイプサポートを抱えたままです。

何も問題がない様子なのでした。そしてパイプサポートを地面に置くと、浮き上がったステップの確認に向かうのでした。
猫井川もパイプサポートをその場に置くと、慌てて駆け寄りました。

「大丈夫ですか?」

すると、兎耳長は、

「うん。大丈夫。
 昔、重慶にいた時は、こんなのしょっちゅうだったからね。」

兎耳長は平然と言い放ちます。そして、

「あー、金具が緩んでたんだね。だから浮いたんだ。
 番線でくくっとこう。」

ステップが浮いた原因がわかると、兎耳長はすぐに番線を取りに行きました。

取り残される猫井川。

「じゅうけい???しょっちゅう???」

兎耳長の言ってることが理解できないのでした。

そんな猫井川を残し、淡々と階段の補修を行う兎耳長なのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回は久しぶりに兎耳長が主役です。
兎耳長は何かと謎の経歴を持つのですが、その実態は本人が多くを語らないため謎のままです。
長いこと一緒に仕事している保楠田も、断片的な経歴しか知らないのでした。
しかしその漏れ聞く断片も昔ボクシングをしていたなど、?を増やすだけの始末なのでした。

今回もそんな過去の断片が垣間見えました。
昔、重慶にいたそうな。それが一体いつのことで、何をしていたのかについては、黙して語らずです。

さて今回は、仮設の階段から滑り落ちそうになったというヒヤリ・ハットです。

建設現場で段差がある場所に、仮設の階段を設けたりします。
この階段は仮設材でもあるのですが、鋼管とステップを固定して組立てたりもします。

どのような階段であれ、足を載せた時ぐらぐらしないように固定されていなければなりません。
今回のケースでは、固定が十分でなかったようです。

仮設の足場や階段などは作業前に点検することが、このような事故を防ぐために大事です。
また荷物を両手に抱えて階段を降りるのは、足元が見えません。
そのため、クレーンで荷物を段差の下に運びこんでおくと、階段を使う必要がなかったですね。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット 型枠支持用のパイプサポートを持ち、階段を下りていたら、ステップが外れて滑り落ちそうになった。
対策 1.クレーンなどで段差がないところに荷物を置く。
2.仮設は作業前に点検する。

今回のケースでは、兎耳長でなければ怪我をしていましたね。 階段なんて日常的に使いますね。建設現場では使い慣れているものです。しかし普段使っている何気ないものも、整備を怠ると怖いことになるのです。

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