○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、型枠から足ツルンする

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第77話「猫井川、型枠から足ツルンする 」
猫井川が担当している擁壁工事ですが、大きなトラブルもなく、順調に進んでいきました。

2番目の区間に続き、3番目、4番目と出来てきました。
そして、いよいよ最後の区間へと差し掛かりました。
この工事も終わりが見えてきました。

「いよいよ、これで最後ですね。
 やっと慣れてきたところなんですけど。」

最後の区画を前にして、猫井川が言いました。

「大きなトラブルがなくて、よかったな。
 この調子だと、早く終わりそうだな。」

猫井川の言葉に、隣りにいた鼠川が言いました。

「ほんとにねぇ。猫ちゃんも、もう一安心でしょ。」

同じく近くで準備をしていた保楠田も続きました。

「ええ、このまま何事もなく終わればいいのですけど。
 元請けさんも順調だから、喜んでくれてます。」

猫井川が返事しました。

「そうだな。他の工事は全体的に遅れ気味みたいだし、わしらが順調なのは、元請けとしては嬉しいんじゃないか。」

この工事現場では、いくつもの業者が入っています。
建物建築や敷地内の配管などの作業が進められており、猫井川が担当しているのは、全体からするとほんの一部に過ぎません。

そもそも本来は他の業者が請け負っていたのですが、作業が遅れに遅れ、とても手が回らないということで、HHCにお鉢が回ってきたのでした。
そういったいきさつがあるので、全体の工程からすると些細なものですが、順調に進んでいるのが元請けには、嬉しいのでした。

「そうですね。元請けさんも『よくやってくれてる。』と言ってくれてました。
 順調で喜んでるみたいですよ。」

「そうだろうな。
 でも順調だからと調子にのっていると、足元をすくわれるから、気を抜くなよ。」

「もうちょっとなので、きっちり終わらせましょうか。」

猫井川はそういうと、鼠川、保楠田とともに作業を開始したのでした。

同じ作業を続けてきただけあって、段取りは慣れたものです。

保楠田はショベルカーで掘り、掘り終えれば砕石を敷均し、均しコンクリートを打込みます。
その翌日には均しコンクリートは型枠を外せる程度には固まっているので、墨出しして、型枠を組んでいきます。

当初は3人という少ない人数で、段取りもままならないこともありましたが、今となってはみんな自分の役割を理解して、しっかり連携していっているでした。

型枠を組むのも、最初ころよりスピーディに進むようになりました。
型枠材も基本的に使い回しもできるので、持ち運びに時間もかかりません。
さすがに2度3度使いまわしているので、あちこちに傷みがありますが、それでも使えないというほどではありません。
あと1回くらいは耐えてくれそうです。

3人で型枠を組んでいき、コンクリートを打ち込んだ時に内圧に負けないように、しっかり固定します。
カンコン、カンコンとハンマーで打ちつけること、数時間型枠は完成しました。

「よし、型枠は終わったが、コンクリートはいつ打つんだ?」

軍手の甲で額の汗を拭いながら、鼠川は猫井川に聞きました。

「今日は来ないです。今から打っても、仕上げができないので。
 明日の朝一で手配してますよ。」

「そうだな。それがいいな。
 お前も分かるようになってきたな。」

「そりゃ、そうですよ。
 コンクリートの表面を押さえるのに、夜になってから来たくないですからね。」

「昔、コンクリート作業が夕方までずれ込んで、深夜までコテをかけたことがあったぞ。
 さすがにその時はきつかったな。」

「そういうのたまに聞きますね。
 今回は夜間作業はしませんので、明日の朝コンクリート打ちで、夕方までには養生して、撤収です。」

「それじゃ、今日は引き上げるか。」

鼠川の引き上げるか宣言で、3人は片付けをして、作業場を後にしたのでした。

翌日。
曇っていはいましたが、雨の心配はなさそうな天気でした。

猫井川たちは現場に到着すると、コンクリートを打ち込む準備にとりかかりました。

「猫井川、コンクリートは何時くらいに来るんだ?」

鼠川が聞きました。

「9時には来ると言ってたんですけど。」

「まだしばらく時間はあるな。
 型枠の中に水をまいて、湿らせておけよ。」

「わかりました。
 鼠川さんたちは、バイブレーターの準備とお願いします。」

猫井川は、そう言うと近くの蛇口にホースをくっつけ、型枠まで伸ばしてきたのでした。

型枠は上は狭く、下に行くほど広い台形の形です。型枠内部の隅々まで水を行き渡らせようと、型枠の上部ヘリに立ち、ホースの水をまいていきました。
ジョボジョボと音を立てて水が均しコンクリートを打ちます。

型枠の上に立った猫井川は、少しずつ移動し、内部を湿らせます。

しばらくその作業を続けていた時でした。
型枠の上を移動していた猫井川の足がツルリと滑ってしまいました。

そのまま型枠から落ちる猫井川。
手にしたホースは天に向かって水を放ち、無情にも猫井川の上に降り注いできたのですた。

「アバババハバ」

少しの間、妙な声を出しながらのたうち回りましたが、すぐにホースを手放し、水浴びから逃れたのでした。

「どうした?猫井川?」

異変に気づいた鼠川と保楠田が近づいてきます。
穴の中で2人が見たものは、ずぶ濡れの猫井川の姿なのでした。

「いや、転けてしまって。」

力なく答える猫井川。

「だから足元がすくわれないようになと言っただろう。」

呆れ気味に言う鼠川。

「とりあえず、ふいてきたら?
 着替えはさすがにないよね?」

保楠田が言いました。

「着替えはないですけど、作業服した濡れていないので、脱いで乾かしておきます。」

そう言うと猫井川は、上着を脱ぎ、車まで干しに行ったのでした。

先程まで意気揚々としていた最後のコンクリート仕事は、とってちょっぴり寒いことになってしまったのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

いよいよ擁壁工事も佳境に突入してきました。
残るコンクリート擁壁はあと1つになってきました。

同じ作業を繰り返し続けてきたため、慣れ切ってしまったでしょうか、思わぬ落とし穴があったのでした。

型枠をして、コンクリートを打ち込む前には水をまいて、型枠を十分に湿らせます。この時乾いたままにしておくと、コンクリートを外すときに引っ付いてまって、せっかく固まったコンクリートを壊してしまいます。

そのため猫井川が水をまくことは間違っていないのですが、やり方に問題があったようです。

コンパネの端には桟木などで補強されています。そのためコンパネを立てた状態であっても、足をかけるスペースくらいは確保できます。
猫井川も桟木でできたスペースに足をかけて水をまいていたようです。

狭く不安定な場所であっても、そう簡単に落ちるものではありませんが、今回使用していた型枠は使いまわしていたので、よれよれになっていましてた。角もやや摩耗していたことでしょう。そういうのもあって、滑りやすくもなっていたのだと思われます。

慣れは行動を大胆にしていきます。
大胆な行動は、危険になることもあるのです。
猫井川のこの行動は、冷水をぶっかける結果になったようです。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット 型枠に立って水をまいていたら、滑って転んだ。
対策 1.型枠の上には立たない。
2.作業になれた頃には、気を引き締める。

いよいよ、猫井川の擁壁工事も終わりに近づきました。
時々ヒヤッとすることもあるようですが、順調に進んでいます。
このまま無事に完成になるかは、もうひといきといったところでしょうか。

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