○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

鼠川、水中ポンプホースにひっかかる

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第74話「鼠川、水中ポンプホースにひっかかる 」
擁壁工事は最初の区分は無事完了しました。擁壁のコンクリートも打ち終わり、脱型も終わりました。コンクリートの表面には、大きな傷やヒビもなくきれいな仕上がりでした。

その仕上がりに満足し、次の区分の擁壁作りに移りました。

コンクリートを打つ前にある程度は掘削は進んでいたものの、次の延長分の掘削はこれからです。
さて、猫井川が最初の仕上がりに満足することなく、いざ次に行くぞと思った時、出鼻をくじくように天候が悪化したのです。
雨では、土木の作業はできません。土が水を含み、ドロドロになってまうからです。

雨は数日続きました。

「このままじゃ、作業できないですね。」

事務所で暇をもてあましながら、猫井川がぼやきました。

「雨の時は仕方ないさ。
 この雨で、他の現場もストップしてしまってるからな。」

猫井川の隣の席にいで、同じように暇を持て余していた鼠川はそれに答えて言いました。

「現場が進まないから、困るんですけど。
 工期もあんまりないですし。」

「外の仕事は、どうしても天気には敵わんさ。
 台風とかになると、現場が長い間動かないこともあるぞ。」

「そんなこともあるみたいですね。
 鼠川さんも昔経験あるんですか?」

「ああ、あるぞ。
 まだお前が入る前ずっと前だけどな。

 10年以上前に、台風でこの辺りが水浸しになったことがあるだろう。
 あの時は大変だったぞ。」

それは、10年以上も前の夏の出来事です。
数日前より、ニュースで、日本列島に台風が直撃すると予報されていました。
その予報に違わず、昼間から風が強くなってきていました。

鼠川はその時、工場新設のための土木工事を担当していました。

「鼠川さん、台風に備えて、どんな養生をしておきますか?」

一緒に作業をしていた馬万ヒンが尋ねました。

「そうだな。今回の台風は大きそうだから、しっかりしておかないとだ。
 とりあえず、今掘っているところは埋めてしまって、崩れそうなところは、ブルーシートを押さえておこう。

 どうしても捨てコン養生のところは、埋められないから、そこもブルーシートだな。」

「それくらいしかできないですよね。」

「ああ、なるだけ雨がひどくならないことを祈るしかないな。
 それじゃ、雨が降り出す前にやれるだけやっていこうか。」

そうして、鼠川は埋め戻しの作業を始めたのでした。
作業の途中から雨は徐々に降り出し、その日の作業が終わる頃には、しっかりとした雨脚になっていたのでした。

「何事もなく過ぎてくれればいいが。」

現場を後にする鼠川の胸中には、この空模様と似た不安が立てこもっていたのでした。

その日の夜半。
予報通り台風は日本列島に上陸しました。

雨と風は上陸に先立ち、強さを増していきました。
大雨洪水警報が発令され、一部には避難勧告が出されました。

この影響は、鼠川が住んでいる地域にも大きな被害をもたらしたのでした。

大雨によって河川の水かさはどんどんと増しました。用水路は溢れ、一部の民家は床下浸水するような事態になったのです。
山際では土砂崩れを起こしたところもあったようでした。

夜が明けると、街は水浸しにてなっていました。

HHCも一部の社員は、浸水被害がありましたが、被害がなかったものは出社してきたのでした。

「これは予想よりひどいことになったな。」

出社してきた社長の象上寺巨介 が、みんなに言いました。

「また市とか県からも要請があるとは思うけど、しばらくは災害復旧をしなければならないはずだ。
 今日のところは、ひとまず水中ポンプポンプを持って、近所の排水を頼む。

 それと手分けして、倉庫とか資材置き場の様子を見てきてくれ。」

象上寺がそう言うと、それぞれは作業分担していくのでした。

「現場大丈夫ですかね?」

馬万が鼠川に話しかけると、

「そうだな。さすがにここまで降るとは思わなかったな。
 現場の様子は確かに気になるけども、まずは社長が言っていたように、水中ポンプを持って行くぞ。」

鼠川はダンプに発電機と水中ポンプを載せると、出発したのでした。

用水路からあふれた水は、道路を覆い、道を走る車は飛沫をあげています。

河川の水は早朝よりも水位を下げてきています。鼠川は河川にほど近い用水路に水中ポンプを設置して、排水することにしたのでした。

「よし、ここで排水しよう。川の水位は少し下がってきたから、川に排出していく。」

用水路に水中ポンプを下ろし、ホースを川まで伸ばしました。
セットし終えると、発電機をかけ、排水スタートです。

すぐに大量の水がかきだされていきました。

「これだけの水だと、抜けるのも1日かかりそうだな。」

辺りの様子を見ようと、鼠川が歩いた時でした。
ちょうど、ホースがはっている場所に差し掛かった時、ホースが足につまづき転けてしまってのでした。

バシャッ!

幸い、水路に落ちることはなかったものの、 尻もちをついた鼠川のおしりはビショビショに濡れてしまっていたのでした。

「いてて。滑ってしまった。
 もうちょっとずれていたら、死んでいたな。」

すぐ側の水路を見ながら、ぞっとしつつ、尻に冷たさを感じたのでした。

・・・・・

「その時は結局どうなったんですか?」

鼠川の話を聞いていた、猫井川は聞きました。

「しばらくは災害復旧だったから、しばらくは、現場どころじゃなかったよ。
 こんな程度の雨じゃ、全然平気だよ。」

「さすがにそんなに降らないでしょうけど。
 しばらくは様子見ですね。」

事務所で雨音を聞きながら、早く現場が再開する日を願う猫井川なのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回は雨のため擁壁工事は、一旦中止になって、鼠川の昔話です。

近頃は、夏場に台風やゲリラ豪雨などで水害となることが多いです。毎年のように日本のどこかで災害が起こっています。
一度水害になると、しばらくは後処理と復旧にかかりっきりになります。

現場作業は完全にストップしてしまいます。
場合によっては中断指示が出たりします。

溜まった水は掻き出すときには、水中ポンプを使います。
水中ポンプは本体を水中に下ろし、水を吐き出すところまで、ホースを伸ばします。

掘削などの作業では、掘った穴の中に溜まった水を取り除くのに使われます。
ホースは地表をはわせるのですが、ちょっとした障害物になります。

とはいうものの、そうそうつまずくものではありませんが、水害現場ということもあり、つまずいてしまったようです。
もし水路に落ちていたら、命に関わるので、危機一髪でした。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット 水中ポンプのホースにつまずいて、転んだ。
対策 1.ホースは歩くのに支障のない場所にはわせる。
2.ホースは明示して、わかりやすくする。

水害時にはイレギュラーなことが多く、危険があります。
災害で荒れているので、なおさら危険があるのです。

たかがホースでつまずくですが、そういった普段起こりえないことも起こってしまうのです。

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