○コラム

杭打ちデータ不正の問題は、安全管理も他人事ではない

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横浜のマンション傾きから始まった、杭打ちデータ不正の問題がかなりの広がりを見せ、耐震偽装事件を彷彿させるようになってきました。
今回、事の発端となったのは旭化成建材には国交省の調査も入り、まだまだ収まる様子を見せません。

この問題は建設工事の品質に関わるものと言えます。しかし一連の報道を見ていると、これは安全管理においても同じなのではと思ってしまいます。

それというのは、これくらいならいいだろうと軽い気持ちでやってしまったことが、多大な被害を生むこともあるということです。
横浜のマンションのケースで言うと、杭が地盤まで達していないけれども、達したことにすることや、データがないから他から流用したことが、地盤沈下という形で帰ってきてしまったのです。

事故が起こる時も、これに似ています。
これくらいなら事故にならないだろうという安易な行動が、とんでもない事故を招いてしまうことがあります。

時間がなかった。
そんな大事になるとは思わなかった。

安易な妥協は、時として大きな災害を招きます。
妥協する所と、妥協してはならないことには、厳格な線引を必要とするのです。

index_arrow まさかマンションが傾くとは

ビルやマンションといった高層建築を作る上において、基礎工は最も大事です。建物全体を作る工事において、工期の半分は基礎工というくらい時間もかかります。

建物が沈まず、傾かないようにするためには、堅固な地盤で支えてやる必要があります。この堅固な地盤は地表からずっと深い場所にしかありません。杭は地下深くの地盤まで深く差し込み、地上の建物を支えるためのものです。いわば地中の柱といえます。

もし基礎なしで地面の上に建物を立てると、建物の重みで地面に沈みます。東京など海を埋め立てて造成した土地は、建物を支える力は貧弱で、いうなれば豆腐の上に中身の入ったコップを置くようなもの。試してみれば、どうなるかは想像のとおりです。

横浜のマンションでは、建物の一部が沈み込み、段差が生まれてしまいました。沈んだ所は杭が地盤に達していなかったところです。その数は8本だそうです。
数十本打ち込んだ杭のうちの、たった8本が地盤に達していなかったことにより、目に見えるほどの沈下を生み出したのでした。

施工担当者もまさかこんなことになるとは思わなかったはずです。
たった8本の不良によって、支払う代償はどれほどになるでしょうか。元請けの三井不動産レジデンシャルは建替えも提案しているそうです。補償や賠償などを含めると、とんでもない金額になるはずです。
施工業者の旭化成建材も莫大な支払いになるはず。費用はもとより、信用面でもかなりの損害は免れません。

工期が迫っていて、杭の取替が間に合わない状況だった。
現場作業が優先で、書類は後回しになっていた。
など、建設業に身を置くものとして、これらの言い分には身につまされます。
自分たちもたまたま大きな問題がないだけで、見に覚えがあります。

何とかつじつまを合わせようとしたものの、つじつまが合わなくなってしまったのです。

index_arrow 事故もまさかが重なる

杭打ちの施工担当者が、まさかこんな問題になるとは夢にも思わなかったのではないでしょうか。
しかし過ぎ去ったことは、もう取り返しがつきません。

冒頭の繰り返しになりますが、事故もまさか起こるとはという時に降りかかります。
とはいえ、いつも事故なんて起こるはずがないと思っている人がほとんどでしょうけど。

ちょっと安全カバーを外してしまうこと、高所で身を乗り出していまうこと、重機の前を横切ってしまうこと。 全てほんの些細な行動にしか過ぎませんし、ほとんど事故に至りません。
しかし、何かタイミングが合ってしまった時、事故に巻き込まれてしまいます。

事故のほとんどは特殊な状況で起こったものではありません。日常的にありふれた作業で起こってしまうのです。

ほんの数本、地盤に達していないかもしれないけれども、大きな影響はないだろう・・・と、考えたかは分かりませんが、事故は安易な判断の結果起こってしまいます。

そして一連の杭打ち事件に似ているのは、安全管理も書類主義的な面もあることです。
チェックシートやKY、その他OSHASやISOに関係する書類など、かなりの記録を残すことが求められます。
書類をたくさん作っていると、安全管理をしっかり行っているように思ってしまいます。安全管理者が書類作成に忙殺されて、現場を見る時間がないなんてこともあります。

作業前の点検も、やってないけどチェック付けとけ、としていたら、ある日故障して事故になる可能性もあります。

体裁だけ整え、実が伴わないなんてことも、よくあることです。

マンションが完成してから、傾きが発覚しても、手の打ちようがありません。
事故も起こってしまったら、取り返しがつきません。事故調査で書類をチェックしたら、不正が見つかったなど、よくあるケースではないでしょうか。

安易に危険行動を許していないか。
書類の体裁を整えるだけの安全管理になっていないか。

杭打ち不正の問題ではありますが、その根はずっと深く、広いです。
安全管理についても、同様の問題を抱えています。

それにしても、今は何でも多大な書類を必要とします。書類ばかり増えると、実作業ができなくなる。
もうちょっと簡素化できないものでしょうか。

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