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秋田乳頭温泉で硫化水素中毒か 源泉で作業の3人死亡

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日本は火山が多く、時として桜島や昨年の御嶽山のような噴火が起こったりします。

火山には噴火や、降灰など不便を強いる所もあるのですが、一方では恩恵をもたらしてくれます。

その恩恵の最たるものは、温泉ではないでしょうか。

温泉は日本全国、ありとあらゆる場所で湧き、有名な温泉地も多数あります。

地中で温められた地下水が温泉になるのですが、温められて出てくるもの中には、有害なものも少なくありません。

有害なものの例としては、有毒ガスがあります。

温泉地などでは、よく硫黄の匂いがすると言います。
これは、卵が腐ったような、臭いのことです。

しかし硫黄そのものには、臭いはありません。無臭です。
いわゆる硫黄の臭いというものは、硫化水素のことです。

詳しい発生メカニズムについてはここでは述べませんが、温泉の硫黄成分が硫化水素に変化します。
つまり温泉と硫化水素とは一体であるとも言えます。

硫化水素は、猛毒です。
ほんのわずかの量で、人は死に至ります。

温泉の管理業務では、この硫化水素への対策が欠かせないことは確かです。

先日、秋田の有名な温泉地である乳頭温泉で、3人の方が亡くなるという事故が起こりました。
原因は、どうやら有毒ガス、硫化水素のようです。

今回はこの事故の原因を推測し、対策を検討してみます。

秋田乳頭温泉:硫化水素中毒か 源泉で作業の3人死亡(平成27年3月18日)

18日午後5時ごろ、秋田県仙北市田沢湖生保内(おぼない)の乳頭温泉郷近くの源泉施設で、「作業していた男性3人が倒れている」と119番があった。3人は心肺停止状態で見つかり、死亡が確認された。温泉の源泉に含まれる硫化水素で中毒になった可能性があり、県警仙北署は当時の詳しい状況を調べる。

 亡くなったのは、いずれも仙北市在住の作業員2名、市職員。このほか、一緒に作業していた別の市職員も気分が悪くなり、病院で手当てを受けている。

 市によると、現場は市企業局が管理する「カラ吹(ふき)源泉」。「温泉の温度が下がっている」との連絡があり、同局工務課の職員2人を含む4人が同日午前からパイプに詰まった空気を抜く作業をしていた。作業を終え、同午後5時前に4人で近くに置き忘れた荷物を取りに行ったところ、作業員2人が源泉から約200メートル離れたくぼ地で急に倒れたという。その後、助けようとした市職員も倒れているのを、もう一人の職員が発見し、連絡を受けた市が119番した。

カラ吹源泉は乳頭温泉郷の東約700メートルにあり、約5キロ離れた同市内の田沢湖高原温泉郷に温泉供給している。

毎日新聞(元の記事が削除されているようです。)

この事故の型は「有害物との接触」で、起因物は「有害物(有毒ガス)」です。

この事故については、読売新聞が後追い記事を書いています。

読売新聞(元の記事が削除されているようです。)

これらの記事から、状況と原因を推測してみます。

事故は、市が管理する源泉で、点検を行っていた時に起こりました。

事故当日は、湯の量を調整するバルブは、雪に覆われ、すっぽり覆われている状態だったようです。
しかし、温泉の熱で配管やバルブの周りは雪が解けており、空洞になっている状態でした。ちょうどカマクラに近い状態ですね。

温泉施設より、湯の量が減ったという連絡を受けた、市職員と作業者は、このバルブを操作しようと現場に向かいました。

バルブは雪の下にあったので、スコップで掘り、ぽっかり開いた空洞の中に入った時、事故が起こりました。

雪で蓋をされた空間の中は、管内の空気を吐き出すコックから漏れ出た硫化水素が満ちていたのでした。

硫化水素は、空気中にほんのわずかの量が混ざるだけでも、重大な障害をもたらします。
基準となるのは、10ppm未満であること。
ppmとは、100万分の1という単位です。つまり、100万分の10という濃度以上のであると、人体に影響をもたらすのです。

硫化水素は、避難する暇もなく呼吸困難となり、意識障害を起こし、死亡します。
恐るべき毒性なのです。

しかも性質として、空気より重いので、雪を掘っただけでは、拡散せず、空洞の中に溜まったままなのです。

この事故は、温泉と雪という、一見すると風光明媚な環境が生み出したものであるとも言えます。

それでは、原因を推測します。

1.バルブ付近に雪が積り、空気を遮断し、硫化水素を滞留させる環境だったこと。
2.空洞の内部に入る前に、硫化水素濃度の測定を行わなかったこと。
3.送気マスクなどの保護具を使用しなかったこと。
4.硫化水素に対する危険意識が低かったこと。

記事によると、市役所には硫化水素の濃度測定器や、吸気マスクなど、硫化水素に対する備えの器具はあったようです。

しかし、これらは持ち出されず、使用されませんでした。

お湯の量は日常的に増減し、バルブの開閉、管内の空気抜きなどは、日常的に行われていたようです。
日常的な作業で、イレギュラーは想像しにくいものです。
それが危険意識を低下させてしまい、備えを行ったのではないかと想像されます。

対策を検討します。

1.硫化水素濃度が高い場所では、作業前に測定する。
2.送風機等を使用し、十分に換気してから、作業を行う。
3.吸気マスクなどの保護具を使用する。
4.作業前の測定や換気などを徹底させるよう教育を行う。

今回の事故は初めてではなく、数年前にも同様の硫化水素による事故が発生したそうです。

注意喚起等はされていたようですが、業務に落としこむまでは徹底されてはいませんでした。
そういった背景が、この事故を招いてしまったのかもしれません。

危険だと分かっている作業も、日常的に携わっていると危険意識は薄れてきます。

車を例にすると、分かりやすいかもしれません。
車は当たり前のように走っていますが、実は危険なものですよね。
交通事故の恐ろしさは、運転をする人であれば、想像がつくと思います。

しかし長年運転していると、車が一歩間違えれば凶器になるなど、忘れてしまいます。
慣れが、危険意識を薄れさせてしまうのです。

硫化水素などの有毒ガスを扱う場合でも、同様の慣れがあるのではないでしょうか。

慣れるのは、自然なことです。
そして、常に危険意識を持てというのも、困難な話です。

意識の慣れは止めることは不可能でしょう。

ならば、どうしたよいのか。

1つの解決策としては、行動に落としこむことではないでしょうか。

例えば、源泉地に行くときは、常にガス測定器とマスクを持って行くこと。
必ず事前に測定すること。

こういった行動指針を徹底することではないでしょうか。

危険意識があろうがなかろうが、行動として規定するというのものです。

もちろん、これが最適であるとは言えません。
もっと工夫はあるでしょう。

事故防止は、工夫と改善の継続しかありません。
失敗もあるでしょうが、何が効果があるのかを探すことは、人命を支える以上、辞めたくないですね。

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