○安衛法と仲良くなる感電

感電防止 その5。 特別高圧電流が通っている電線の取り扱い。

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高い電圧は、身近な機械には使えません。
電圧が高いほど、たくさんの電気が流れ、機械が故障してしまいます。

家庭や仕事で使う場合には、高くとも100ボルトや200ボルトまでが多いでしょう。

手元で取り扱うには、それくらいの電圧でも十分です。

電圧は水圧に例えられます。
水圧が高ければ、高いほど遠くまで水を運ぶことができます。
ポンプで圧力をかけてやると、ちょっとした山の上まで水を運ぶこともできるのです。

電気も圧力を高くすると、遠くまで運ぶことができます。
発電所から、何十キロも遠くの家庭や会社まで、電気を届けるとなると、相当の電圧が必要になります。

電圧の区分で、直流・交流ともに7000ボルトを越えるものは、特別高圧といいます。
7000ボルトを越えるのですから、中には1万ボルト、2万ボルトといった電圧もあります。

これほど高い電圧ですから、人の手に触れるところにはありません。
主に通っている場所は、鉄塔と鉄塔の間に張られた電線です。

特別高圧は、数字を見るだけでも、とてつもなく大きな電圧です。

当然、触れたら一瞬で死に至ります。
そもそも触れるところか、接近するだけでも感電します。

特別高圧の電線や設備や、電気を遠くまで届けるために必要です。
しかし同時に、とてつもなく危険でもあるのです。

特別高圧を直接取り扱うのは、電力会社など限られているでしょうが、時として鉄塔側で作業を行うということもあります。

特別高圧を取り扱いは、安衛則で取り決められています。

【安衛則】

(特別高圧活線作業)
第344条
事業者は、特別高圧の充電電路又はその支持がいしの点検、
修理、清掃等の電気工事の作業を行なう場合において、
当該作業に従事する労働者について感電の危険が
生ずるおそれのあるときは、次の各号のいずれかに
該当する措置を講じなければならない。

  1)労働者に活線作業用器具を使用させること。
  この場合には、身体等について、次の表の上欄に
  掲げる充電電路の使用電圧に応じ、それぞれ同表
  の下欄に掲げる充電電路に対する接近限界距離を
  保たせなければならない。

充電電路の使用電圧
(単位 キロボルト)
充電電路に対する接近限界距離
(単位 センチメートル)
22以下 20
22を越え、33以下 30
33を越え、66以下 50
66を越え、77以下 60
77を越え、110以下 90
110を越え、154以下 120
154を越え、187以下 140
187を越え、220以下 160
200を越える場合 200

  2)労働者に活線作業用装置を使用させること。この場合には、
  労働者が現に取り扱っている充電電路若しくはその支持がいしと
  電位を異にする物に身体等が接触し、又は接近することによる
  感電の危険を生じさせてはならない。

2 労働者は、前項の作業において、活線作業用器具
  又は活線作業用装置の使用を事業者から命じられたときは、
  これを使用しなければならない。

特別高圧が通る電線などは、まず直接触ることはできません。
手の触れる距離に近づくことも、危険です。

電線や設備の取替や修理などは、電気を止めて行うことが原則です。
しかし電気の流れを止めてしまっては、需要している家庭や事業所に影響が出ます。

時として、電気が通った状態で点検や整備を行う必要もあります。

特別高圧の電線やがいしの点検や修理、清掃を電気が通った状態で行う場合は、活線作業用器具を使い、一定の距離を保って、作業を行います。

活線作業用器具は、カーボンや竹など絶縁性のものなので、電気を通しません。
これで該当部に触れたりするのです。

活線作業用器具には、幾つもの種類があります。
先端に鏡がついているものや、フックになって引っ掛けたりするもの、中にはマジックハンドになっているようなものもあります。

これらを駆使して、作業を行います。

高い電圧になると、直接触れていなくとも、近づくだけで、人体に電気が流れます。
これを誘電といいます。
誘電を防ぐためには、電圧ごとに一定の距離を保つ必要があります。

安衛則では、電圧区分ごとに距離が定められていますが、電力会社ではこれよりも離れた距離を推奨しています。

電力会社では、高圧の6600ボルト以下では、2メートル以上離れ、特別高圧の3万ボルト以下は、3メートル以上離れることを推奨しています。
これよりも高い電圧になると、さらに離れる必要があります。

距離が離れると、作業がしづらくなるのは確かです。
しかしより安全に作業を行うためには、電力会社の推奨に従う方がよさそうです。

作業中に、目測だけで距離を保つのは困難です。
そのため、電線から3メートルの位置にロープを張るなどして、接近限界が分かるようにすると、作業者も分かりやすくなりますね。

さて、活線作業用器具を使用しない場合は、活線作業用装置を使います。
活線作業用装置とは、遠隔で操作する機械などです。

人は直接近づかないので、安全距離は保てますが、場合によっては装置に電気が通り、人体に達することもあるので、取り扱いには注意が必要です。

特別高圧の作業では、絶縁用防具や保護具は、全く役に立ちません。
必ず活線作業用器具などを使用しましょう。

(特別高圧活線近接作業)
第345条
事業者は、電路又はその支持物(特別高圧の充電電路の支持がいしを
除く。)の点検、修理、塗装、清掃等の電気工事の作業を行なう
場合において、当該作業に従事する労働者が特別高圧の充電電路に
接近することにより感電の危険が生ずるおそれのあるときは、
次の各号のいずれかに該当する措置を講じなければならない。

  1)労働者に活線作業用装置を使用させること。

  2)身体等について、前条第1項第1号に定める充電電路に
   対する接近限界距離を保たせなければならないこと。
   この場合には、当該充電電路に対する接近限界距離を
   保つ見やすい箇所に標識等を設け、又は監視人を置き
   作業を監視させること。

2 労働者は、前項の作業において、活線作業用装置の使用を
  事業者から命じられたときは、これを使用しなければならない。

特別高圧の電線に対して作業を行わなくとも、鉄塔などの点検や補修作業を行う場合についてです。
電線に直接触らないものの、近づく可能性はあります。

しかも可能性は、非常に高いのです。

特別高圧の近接作業を行う場合は、活線作業装置を使用するか、必要な距離を保って作業を行います。
必要な距離は、前の条文の距離になります。

必要な距離、つまり近接限界距離は、作業者にわかりやすくするため、ロープを張ったり、標識をつけたり、また監視者を付けるなどの対策を取ります。

電線の近接作業としては、電線の近くでクレーン作業を行うなども考えられます。
その場合も、必要な距離を保たなければなりません。

電線付近のクレーン作業については、別の記事でも書いていますので、ご参考にして頂ければと思います。

移動式クレーンに関わる規定 現場作業編1

特別高圧の電線や設備は、触らない、近づかないが最も重要な事です。

近づくだけで、感電してしまいます。
近づくだけで、ビリっと来るのは恋だけでよいのです。

普通の生活で、特別高圧に触れることはないでしょう。
とはいえ今後、発電と送電が分社化、自由化に向けた動きがあります。

電力会社の社員以外でも、特別高圧を取り扱う、近づく機会も増えるかもしれません。

もしそうなった時、最も大事なことは、直接触れない、近づき過ぎないということを覚えておくといいですね。

まとめ。

【安衛則】

第344条
特別高圧の充電電路又はその支持がいしの点検、修理、清掃等の電気工事の作業を行なう場合においては、必要な離隔を取り、活線用器具等を使用しなければならない。
第345条
特別高圧の電路又はその支持物の点検、修理、塗装、清掃等の作業を行なう場合において、活線用装置の使用、離隔を取るなどの措置をとらなければならない。