○安衛法と仲良くなる高所作業・足場

通路と足場 その8。吊り足場の注意

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地に足が着いていないと不安だという人もいるのではないでしょうか?

高所恐怖症なんて、まさに地から足が離れている不安定さが恐怖を増しているのではと思います。

足場の種類によっては、地に足が着いていないものもあります。

どういう状態かというと、作業床の下には空間が広がり、遥か下に地面があるというものです。

こういった足場は、下から組み上げるものではありません。
上から吊って、作業床を支えているのです。

このような足場を、吊り足場といいます。

吊り足場は、地上から足場を組むことができない場所だけれども、高所作業のため作業床を必要とする場合に設置します。

でも吊り足場は、どんな仕事で使うのでしょうか?

まずは、橋の裏側での工事や点検で使われます。
橋の下は、海や川、深い谷だったりします。そうなると、下から足場を組むことは困難です。
橋自体は頑丈な構造物ですから、足場はこれを支持物にしたほうが、手っ取り早いのです。

また、屋内では工場や倉庫など天井が高い建物で、天井付近の仕事をするばあいにも吊り足場が組まれることもあります。
ただしこれは、天井がコンクリートであるなど、しっかりと支持できるものでなければなりません。

吊り足場は、地に足が着いていない関係上、とても不安定に感じます。
墜落するリスクも高くなるので、しっかりとした強度や構造でなければなりません。

吊り足場の規定についても、引き続き安衛則にまとめられています。

【安衛則】

第5款 つり足場

(つり足場)
第574条
事業者は、つり足場については、次に定めるところに
適合したものでなければ使用してはならない。

  1)つりワイヤロープは、次のいずれかに該当するものを
   使用しないこと。

   イ ワイヤロープ1よりの間において素線(フイラ線を除く。
     以下この号において同じ。)の数の10パーセント以上の
     素線が切断しているもの

   ロ 直径の減少が公称径の7パーセントをこえるもの

   ハ キンクしたもの

   ニ 著しい形くずれ又は腐食があるもの

  2)つり鎖は、次のいずれかに該当するものを使用しないこと。

    イ 伸びが、当該つり鎖が製造されたときの長さの
      5パーセントをこえるもの

    ロ リンクの断面の直径の減少が、当該つり鎖が製造されたときの
      当該リンクの断面の直径の10パーセントをこえるもの

    ハ き裂があるもの

  3)つり鋼線及びつり鋼帯は、著しい損傷、変形又は腐食のあるものを
   使用しないこと。

  4)つり繊維索は、次のいずれかに該当するものを使用しないこと。

    イ ストランドが切断しているもの

    ロ 著しい損傷又は腐食があるもの

  5)つりワイヤロープ、つり鎖、つり鋼線、つり鋼帯
   又はつり繊維索は、その一端を足場けた、スターラツプ等に、
   他端を突りよう、アンカーボルト、建築物のはり等に
   それぞれ確実に取り付けること。

  6)作業床は、幅を40センチメートル以上とし、
   かつ、すき間がないようにすること。

  7)床材は、転位し、又は脱落しないように、足場けた、
   スターラツプ等に取り付けること。

  8)足場けた、スターラツプ、作業床等に控えを設ける等動揺
   又は転位を防止するための措置を講ずること。

  9)たな足場であるものにあっては、けたの接続部及び交さ部は、
   鉄線、継手金具又は緊結金具を用いて、確実に接続し、
   又は緊結すること。

2 前項第6号の規定は、作業床の下方又は側方に網又はシートを設ける等
  墜落又は物体の落下による労働者の危険を防止するための措置を
  講ずるときは、適用しない。

吊り足場は、上部の構造物を支持物として、作業床を吊ります。

吊り足場には基準があり、この基準に適合したものでなければなりません。

吊り足場において、何よりも重要なものというと、吊具でしょう。
つまりワイヤーやチェーンが、文字通り命綱なのです。

玉掛けと同様に使用できるワイヤーやチェーンには基準があり、それに適合しないものは使用してはいけません。

ワイヤーでは、次の基準があります。

1.一よりの素線の断線数が10%以上のもの。
2.直径断面の減少が7%を超えるもの。
3.キンクしているもの。
4.著しい型くずれや腐食があるもの。

所々ちぎれていたり、ヨレヨレになっているようなものは使ってはいけないのです。

吊りチェーンにも基準があります。

1.伸びが製造時に比べて5%を超えるもの。
2.リンクの断面積の減少が製造時の10%を超えるもの。
3.き裂があるもの。

ワイヤーと同様に、破損があるものは使ってはいけないということです。
チェーンは、リンクと呼ばれる、鉄の輪が繋がって、1本の縄状になっています。
リンクが1つでも破損すると、そこからちぎれてしまうので、全てのリンクついて点検しなければなりません。

その他の吊具にも注意が必要です。

つり綱、つり鋼帯などは、破損や腐食があってはいけません。

金属ではなく繊維のナイロンスリング等を使用するばあいは、スリングの切断や破損、腐食があるものを使ってはいけません。

吊具は、使用前に必ず点検し、不適格なものは使わないようにしましょう。
これは、作業主任者の職務です。

命を支えるものですから、責任は重大ですね。

その他は、他の足場と同じような注意点がありますが、作業床については、吊り足場は基準が異なります。

他の足場では、作業床の幅は40センチ以上で、隙間は3センチ以下というものでした。
吊り足場も、作業床の幅は40センチ以上必要ですが、2枚並べる場合でも、隙間はあってはいけません。もし2枚以上並べる場合は、ぴたっとくっつけ、固定しなければならないので注意が必要です。

作業床はしっかり固定し、グラグラしたり、偏ったり、ひっくり返ったりしないようにします。

また接続部は、専用器具などを用い、確実に固定します。

確実な固定と、強固な吊具、これが吊り足場では大切なのです。

(作業禁止)
第575条
事業者は、つり足場の上で、脚立、はしご等を用いて労働者に
作業させてはならない。

吊り足場の上で、脚立やはしごを使ってはいけません。

ただでさえグラグラと安定感が悪い場所で、さらに不安定な状態で仕事をするのは、危険この上なしですね。

吊り足場の上でと条文にありますが、他の足場でも、なるべくなら脚立などは使わないほうがよいでしょう。

吊り足場の特性は、上から吊るということです。
そのため、吊具を設置する箇所は頑丈でなければなりませんし、アンカーなどで吊具の取り付けも頑丈でなければなりません。
もちろん、吊具自身も、破損や腐食がない丈夫なものを使用します。

これらの信頼がなければ、安心して仕事ができません。

古い落語で、兵庫船というものがありますが、船に乗る乗らないで揉める場面があります。

1人が「船の上は楽に移動できて極楽かもしれんが、下は地獄だ。」と渋ります。

吊り足場も、この船と同様に作業床の下は、遥か下まで何もありません。

極楽とは言いませんが、安心して作業するには、しっかりとしたものでなければなりませんね。

まとめ。

【安衛則】

第574条
つり足場については、材料や構造が適合したものでなければ、使用してはならない。
第575条
つり足場の上で、脚立、はしご等を用いて労働者に作業させてはならない。