墜落・転落○事故事例アーカイブ

労働新聞の記事から、スレート屋根の事故事例紹介

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先日、労働新聞社の「安全スタッフ」の記事として、「職長に「話し方」を指導する」を紹介しました。
それと同じ号では、もう1つ興味深い記事がありましたので、こちらも紹介し、あれこれ考察してみたいと思います。

労働新聞社

2014年9月15日 第2218号

スレート屋根 安易に上るべからず
スレート板で葺かれた屋根を踏み抜き墜落する労働災害が頻発している。
香川労働局管内では今年3月から7月末までの5カ月間に死亡3人を含む4件の災害が発生したことから、管内の事業場に対策を要請。歩み板の設置など対策を講じるよう求めている。

一方、茨城・水戸労基署管内では昨年8月から今年5月までの間に5件の死傷災害が発生。
管内の事業場へ注意を呼び掛けるとともに、7月には工事会社2社を安衛法違反の容疑で水戸地検に書類送検した。

災害頻発の背景には、スレートの劣化に気づかず安易な気持ちで屋根に上がってしまうという安全意識の欠如、さらに予算不足で安全対策が十分にとられていない実態が指摘されている。

スレートとは、建設用材料で、屋根や外壁でよく使われます。
昔はアスベスト等も使われていましたが、今は使われていません。
セメントや石などでできています。

スレート屋根というと、灰色で波型で、工場や倉庫に使われているのを目にするのではないでしょうか?
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このスレート屋根、とても軽く、安価な上、耐久性もあるので、よく使われています。
しかし、設置して何十年ともなると、紫外線や雨風により劣化し、脆くなってきます。
さらに、耐久性があるとはいえ、人が乗るほどには、強くありません。さすがに割れます。

安価で、軽く、耐久性も期待できるスレート屋根ですが、上記の記事によると、スレート屋根にまつわる事故が多発してとのことです。

香川県では、5ヶ月で、4件の災害、内3人が死亡等事故が起きています。
また茨城県の水戸管内では、約10ヶ月で5件の死傷災害が発生しているとのことです。

おそらく他の場所でも、発生しているでしょうから、かなりの人が被災していると言えます。

スレート屋根に関する事故のほとんどは、墜落です。
パターンとしては、屋根を踏抜き、階下に墜落する。または滑り落ちるというのが多いようです。

具体的な事故事例を紹介しましょう。

厚生労働省の労働事故事例からスレート屋根に関するものをピックアップし、見て行きたいと思います。

労働災害事例

事例1「雨漏り箇所の修繕のために、屋根上全面に波形鉄板の敷き込み作業を
行っていたところ、屋根を踏み抜き、墜落」(NO.101379)

工作所屋根改修工事において、鉄骨平屋の工場のスレート屋根の上で、雨漏り箇所の修繕を行っていた際の事故です。
被災者は、修繕のため、スレート屋根上全面に波形鉄板の敷き込み作業を行っていました。
その際にスレート屋根を踏み抜き、高さ約5mの箇所から墜落し、死亡しました。

この事故の型は「墜落」です。起因物は「構造物・屋根」です。

この事故の直接的な原因は、屋根の上を歩いていた際に、スレートを踏み抜いてしまったことです。
瓦屋根であれば、木の屋根を組みその上に瓦を並べていくため、瓦を踏み割ってしまっても、階下に落下することはありません。
しかしスレート屋根は、スレート1枚だけということがほとんどです。
屋根の下は、床まで何もない空間なので、一度踏み抜くと、床まで一直線に落ちてしまうのです。

5mの高さから落ちたのであれば、致命的になります。

もう1つ同様の事故を見てみます。

事例2「スレート屋根を踏み抜き、墜落」(NO.680)

被災者の属する事業場は、暴風雨で破損した製紙工場の屋根の補修の注文を受けていました。

作業は、まず3人が屋根に上り、地上の1人とでロープを用いて、スレート材、歩み板、電気ドリル等の工具をつり上げました。
次に、歩み板(長さ180cm、厚さ2cm、幅30cmの合板足場板)2枚を敷こうとしたが、スレートを梁に固定しているボルトが、スレート山から約15mm出ており、安定良く敷くことができず、指揮者の判断で、歩み板を屋根から下に降ろしました。

4人で、1時間ほど補修作業を行ったとき、スレート材が不足したので、班長が、屋根から降り、資材置場へ取りに行きました。
残った3人は、ボルト用の穴あけ、防水措置等を行っていたが、一段落ついたので、地上で休憩することになりました。
補修個所からはしごまで約12m屋根を移動する途中、3人の最後を歩いていた被災者が、ボルトにつまずき、スレート屋根を踏み抜き、約8m下のコンクリート床面に墜落し、死亡しました。
作業者は全員、保護帽を着用していたが、安全帯を使用するための設備、防網等は設置されていませんでした。

この事故の型は「墜落」です。起因物は「構造物・屋根」です。

安衛則では、スレート屋根の上で作業する際の規定があります。

【安衛則】

(スレート等の屋根上の危険の防止)
第524条
事業者は、スレート、木毛板等の材料でふかれた屋根の上で
作業を行なう場合において、踏み抜きにより労働者に
危険を及ぼすおそれのあるときは、
幅が30センチメートル以上の歩み板を設け、
防網を張る等踏み抜きによる労働者の危険を防止するための
措置を講じなければならない。

幅30cm以上の歩み板を設ける、もしくは墜落防止のための防網(安全ネット)等を設けなければならないとしています。

スレート屋根は、雨風をしのぐためには十分ですが、人が乗るほどの耐久力はありません。
人が乗ると、足の裏の面積にだけ体重が集中するため、割れてしまうのです。
歩み板を設けると、体重が板全体に分散され、踏み抜きを防ぐことができます。

事例1では分かりませんが、事例2では当初歩み板を設置しようとしました。しかし構造上困難だったために、設置を諦めたのです。
この場合は、落下防止用のネットを張るなどで対処すべきでした。

さらに歩み板以外にも、高所作業において、労働者は墜落に備え、各種保護具を着けなければなりません。

(作業床の設置等)
第518条
事業者は、高さが2メートル以上の箇所(作業床の端、
開口部等を除く。)で作業を行なう場合において
墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、
足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。

2 事業者は、前項の規定により作業床を設けることが
  困難なときは、防網を張り、労働者に安全帯を
  使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための
  措置を講じなければならない。

2m以上の高所で作業する場合は、足場を組み、作業床を設けなければなりません。
しかし屋根の上での作業。
2m以上の場所であるものの、屋根の上に足場を組むことはできません。

その場合は、2項が適用になります。
作業床を設けるのが困難な場合は、防網や安全帯を着用させる等の措置が必要になります。

防網は先ほど書きましたが、安全帯について説明します。
安全帯とは、命綱のことです。
腰に巻くベルトタイプと、最近ではハーネスタイプがあります。
フック付きのロープを、仕事の邪魔にならない、しっかりした場所に引っ掛けます。
それで万が一、足を踏み外した場合でも、墜落しないようにするのです。

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高所作業では、安全帯は必須です。

屋根の上のように、適当に引っ掛ける場所がない場合は、親綱というロープを張ります。

事例1、事例2では、ともに親綱を張り、安全帯の着用が行われていませんでした。
これが踏み抜いた際に、墜落をストップできなかった要因になります。

また高所作業を行う場合に限らずですが、保護帽、つまりヘルメットは必ず着用しなければなりません。
直接、高所作業ではありませんが、少々強引に屋根の作業も高層建築現場に含まれると考えると、次の規定に従わなければなりません。

(保護帽の着用)
第539条
事業者は、船台の附近、高層建築場等の場所で、
その上方において他の労働者が作業を行なっている
ところにおいて作業を行なうときは、物体の飛来又は
落下による労働者の危険を防止するため、
当該作業に従事する労働者に保護帽を着用させなければならない。

2 前項の作業に従事する労働者は、同項の保護帽を
  着用しなければならない。

保護帽(ヘルメット)は、建設業等では、必ず着用しなければなりません。
ノーヘルで仕事など、今や考えられないことと言っていいでしょう。

ヘルメットで、1点注意事項。
落下物防止と墜落防止用のヘルメットは、異なるので注意して下さい。
墜落防止用のヘルメットには、内部に衝撃吸収ライナーという発泡スチロールが付いています。
このライナーがあることで、墜落した時の衝撃から、頭部を守るので、高所作業の時には、このライナー付きのヘルメットを使用しましょう。

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屋根の補修など、1日や数日で終わるような短時間の仕事となると、安全設備はおろそかになりがちです。
しかし、当然のことながら、事故は仕事時間の長短に関係なく発生します。

そして墜落事故は、建設業であれば死亡事故の4割以上を占めるほど多く、被害も大きくなるのです。
少しの手間を惜しむことが、大きな事故、致命的な事故、死亡事故につながります。

事例2のように、歩み板を準備していたが、設置できないとうケースもあるでしょう。
その場合は、なしでいいや、と判断するのでなく、少なくとも安全帯は着用しましょう。
安全帯だけで万全とは言えませんが、少なくとも多少のクッションにはなります。
優先すべきことは、命を守ることです。

命に無頓着にならないで下さい。
仕事に慣れてくると、どうしても安全に無頓着になります。

おそらく被災された方も、スレート屋根の仕事も何度もやっていて、今まで大丈夫だったという経験があったのではと思います。
見た目が硬そうなので、瓦屋根の感覚で歩けてしまいそうなのですが、実は見た目以上に脆く、劣化によりさらに割れやすいのです。

今まで大丈夫だったから、次も大丈夫は、ありません。
全ての事故被災者は、同じことを考え、事故にあっているのです。

もう1つ記事にもありますが、予算の都合で、安全対策を削るケースも少なくありません。
確かに安全対策は、費用対効果が見えにくいものです。
お金をかけても、利益を生みません。
さらに、お金をかけなくても、つまりある程度疎かにしても、何とかなってしまうことがほとんどです。事故はめったに起こらないですからね。

しかし、事故が起こると、事業者にとって致命的な損害を与えます。
今まで大丈夫だったから、次も大丈夫は、ありません。
全ての事故を起こした事業者は、同じことを考え、事故を起こしてしまっているのです。

毎年、労災で亡くなられている方の人数は、1,000を切ったことがありません。
そうです、毎年1,000人以上の方が亡くなられています。
スレート屋根の事故は、墜落事故の1つの例でしょう。

亡くなられた方全てに家族がいます。
家族を失うことについては、先ごろ(平成26年9月)の御嶽山噴火で被災された家族を見ると、想像ができると思います。
もし自分の家族が、あの噴火口にいたらと。いたたまれなくなります。

家族を失うのに、事故の型は関係ありません。
いかなる事故であろうとも、喪う痛みは同じなのです。

スレート屋根であれば、ある程度対策できます。
事業者も、現場の職長も作業者も、安全対策をすることは、自分のためだけじゃないんだと思って、きっちりやってもらいたいなと思います。

後半熱くなりましたが、記事紹介を読んで、こんなこと書こうと思った次第です。

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