法改正

建設業の2024年問題とは? | 要点や対応策について解説します

2024年問題は建設業界に大きな課題といえます。この重大な転換点は、労働基準法の改正による時間外労働の上限規制の導入が業界全体に深刻な影響を及ぼし、企業には従来の働き方の全面的な見直しが求められるようになっています。

この記事では、建設業界が直面している2024年問題について解説し、対策を掘り下げてご紹介します。

 

建設業における2024年問題とは?

2024年問題は、労働基準法の改正によって、時間外労働規制の適用除外が撤廃されることにより生じたものです。建設業界においても、従業員の健康保護とワークライフバランスの改善を目的としたこの法改正は、大きな影響を与えることが予想されます。

時間外労働の上限規制が建設業にも適用されることにより、工期の管理や人員配置において、従来の方法を見直し、より効率的な運営が求められるようになります。その対応として、業務分担の見直し、DX化などが取り沙汰されています。

これまで時間外労働の規制が緩かった建設業界では、昼間に工事をして後、残業をして書類業務を行うなどが少なくありませんでした。結果的に、急な工期の変更や遅れが発生した場合に長時間労働になっていました。しかし、上限規制の適用により、このような対応が法的に制限されることになります。この変化は、業界にとって厳しい課題であると同時に、労働環境を改善し、労働者の健康と生活の質を高める機会とも言えます。

 

建設業が抱える課題

建設業界は、働き方改革の必要性を背景に、いくつかの重大な課題に直面しています。これには、深刻な人手不足、労働力の高齢化、根強い長時間労働文化、そして業務効率化及びデジタル化への対応の遅れが含まれます。これらの課題は、2024年問題の到来によりさらに顕著になり、業界全体での迅速な対応を迫っています。

人手不足

建設業界は、特に若年層の関心が薄れていることによる人手不足に直面しています。業界のいわゆる3Kイメージ(危険・きつい・汚い)、そして不規則な労働時間などが、新規採用を難しくさせています。2024年問題がもたらす労働時間の制限は、人手不足を一層顕著にする可能性があります。

対策として、若年層に業界のポジティブな側面をアピールし、より良い労働環境を提供することが重要です。たとえば、建設業界の革新性や、持続可能な社会づくりへの貢献、技術スキルの習得が可能であることを強調し、キャリアアップの道を明示することが挙げられます。また、働きやすい環境を整えるためには、安全で働きやすい環境つくり、健康を考慮した現場の改善が必要です。

さらに、外国人労働力の積極的な導入も今後は積極的に検討が必要になります。言語サポートや文化的な適応プログラムの提供により、外国人労働者がスムーズに業界に融合し、長期的なキャリアを築けるような環境を整備することが求められます。これには、就労ビザの手続きの簡素化や住宅支援など、具体的な支援策の充実が必要です。

重大な問題点として、人手不足解消のために、単に人を増やせばよいというものではいことです。経験者が担当している作業を、新人に任せられるかというと難しいということはわかると思います。人手不足は、人員だけではなく、育成と教育の問題でもあるのです。

その意味おいて、最も深刻な人手不足が予想されるのは、施工管理者、技術者です。工事全体を管理する立場ですので、長年の実務経験も必要とします。そのため企業は新規採用した従業員を長期に雇用し、育成も考えなければなりません。

 

高齢化

建設業界の高齢化は、日本の人口動態を反映しており、特に現場作業員の平均年齢が上昇しています。この傾向は、効率性低下や安全上の問題を引き起こす可能性があり、業界全体の生産性にも影響を与えています。高齢労働者に対しては、体力などを配慮した配置や、安全設備などの充実が必要です。特に転倒災害が多いので、その配慮が必要です。

一方で知識や技能の伝承システムを確立し、経験豊かな高齢労働者が若手に技術やノウハウを効果的に伝えられるようにすることが求められます。

 

長時間労働

長時間労働は、建設業界が抱える深刻な問題と言えます。労働者の健康問題だけでなく、業界のイメージ悪化にも関わっています。この問題に対処するためには、発注者による工程設定の見直しも必要ですが、工事受注者も効率的な工程を組むことが求められます。

 

業務効率化やデジタル化の遅れ

建設業界では、プロジェクト管理のデジタル化や業務効率化の取り組みが遅れていることが、コスト増大や納期遅延の原因となっています。効率化のためにDXを推し進めるなどの話を耳にされたこともあるかと思います。現在は書類をデジタルでやり取りするなどの試みや、BIM/SIMなどのツールを用いています。また熱中症を監視するデバイスを着用されることもあります。請負者だけでなく、発注者も巻き込んだデジタルツールの活用も効率化のためには欠かせない要素です。

 

建設業における2024年問題のポイント

2024年問題について3つのポイントに絞って説明していきます。

 

1.建設業界は時間外労働の上限設定

2.割増賃金の引上げ

3.違反した場合の罰則

 

2024年問題についての意識

大同生命が、全国の中小企業に向けて2024年問題についてのアンケートをとっています。2024年問題について、特に深刻に捉えているのは運送業ですが、建設業では、約50%が「特に影響がない」との回答でした。

しかし問題点として、人手不足などがあげられているため、問題の根深さが伺えます。

 

時間外労働の上限について

労働基準法の改正により導入される時間外労働の上限規制は、月45時間、年間360時間と定められています。建設業では、この上限規制が適用外とされてきました。しかしながら、長時間労働により心疾患を患い、自ら命を絶つなどが見られました。うつや心疾患と長時間労働には深い因果関係があります。そのため建設業界のこの慣習を見直す必要がでてきました。結果として、適用除外だった規制が、2024(令和6)年4月1日から適用となりました。(ただし災害の復旧・復興の事業は除く)

この適用除外は、特に施工管理において特定の人に業務が集中することがあるため、見直しが迫られます。その方法としては、業務の分担制、DX化による効率化、工程スケジュールの見直しなどが考えられます。これらを複合的に行うことで、時間外労働を解消していくことが求められます。

時間外労働の要因の一つが、土日祝の業務です。建設業では土曜、祝日は業務日とされているところも少なくありませんでした。休むのは日曜だけでした。数年前から、国交省の作業場を中心に、週2日休工(4週8休)に取り組み、現在は半ば義務になっています。これにより月トータルの労働時間の減少に努めています。

 

割増賃金引上げについて

2023(令和5)年4月1日からは中小企業における月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%以上から50%以上に引き上げられました。この時間外労働に対する割増賃金率の引上げは、働き方改革を目指したものです。割増賃金が発生することで、企業に時間外労働を制限させる狙いがあります。

 

時間外労働の上限規制に違反した場合の罰則

時間外労働の上限規制を守らなかった企業には、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金の罰則が科せられます。建設業においては、今までこの罰則も適用外でしたが、今後は適用されます。そのため罰則があることを念頭に、対策を検討することが求められます。

 

2024年問題に向けた対応策

2024年問題への対応は、建設業界における労働環境の根本的な見直しを必要とします。一方で、これは効率化や働きやすさを改善することで、業界のイメージを変えるチャンスであるともいえます。

 

適正な工期設定

工期に余裕がない場合、工期内に工事を完了させ、検査準備をするために、時間外労働をせざるを得なくなります。年度内に工期を終えたい思惑があり、予算の関係などで工期が伸ばせないなどの事情があれば、現場はそれに合わせるしかありません。工期については、発注者の協力が欠かせません。発注者が週休2日(48休)を確保することを前提とした工期設定が求められます。また自然災害などが発生して、工事に遅延がある場合の対応も必要になってきます。

 

ICT技術を活用した生産性の向上

工事現場でのICT技術は設計や中間検査などで活用されています。BIM/SIM技術やドローンによる全景の撮影、ウェアラブルデバイスを使用したリモート検査などは、正確な情報伝達に加え、関係者間で迅速に情報共有することができるため、待ちの時間解消も繋がります。

 

安全と効率化の両立に向けた取り組み戦略

建設業界において、安全管理と効率化は密接に関連しています。2024年問題に向けての対応策を計画する際、両立させることが重要です。

 

安全管理の強化策

安全管理については、すでに取り組まれていることと思います。しかし考えていただきたのは、労働災害が発生したときに生じるコストです。経済的な損失だけでなく、対応にかかる時間的にコストも多大となります。災害が発生すると工事は中止してしまいます。再開には、発注者や監督署の許可が必要です。また中止期間中は災害の処理、再発防止の検討などにかかりっきりとなり、多大な時間を費やすことになります。安全に作業をすることこそが、最も時間効率を高めることになります。まだ一戸建て住宅の建築など民間工事では安全対策が不十分でないところも見られます。安全設備や保護具の使用などを徹底することが必要です。

 

新技術や機器を用いた安全対策

時間がかかる作業の一つに書類があります。発注者との書類のやり取りは、クラウドを通じて決済されることも多いのですが、紙で管理されていることもまだまだ多いです。安全衛生管理書類についても、グリーンファイルなどクラウド管理されることも増えてきました。また出退勤をCCUPで管理するところも増えてきます。デジタル技術を駆使することで、繰り返し作業、煩雑な作業などを軽減し、管理にかかる時間を軽減することで、安全な作業に集中する体制を作ることも必要です。

 

従業員の安全教育と意識向上

安全教育プログラムを実施し、作業員が危険認識能力を高め、安全な作業方法を身につけることができるようにします。例えば、バーチャルリアリティ(VR)を利用した安全研修では、リアルな事故シミュレーションを通じて、危険への対応方法を学習します。

 

効率化と安全性を損なわないための工程管理

余裕がない工程であれば、無理が生じてしまいます。建設作業では、天候や資材搬入の遅れなど、予定通りに進まないことも少なくありません。これらの遅延も見込んだ工程を組むことが求められます。工程は発注者が決めることになりますが、当初打ち合わせで認識を合わせることと、遅延が発生した場合に迅速に相談することなども必要です。また常に関係者で工程進捗を共有し、いち早く問題点を発見する仕組みも重要です。

 

まとめ

2024年問題に対応することは、建設業界にとって決定的なチャンスとも考えられます。時間外労働の厳格な規制を契機として、従来の労働慣習を一新し、業務の効率化、労働者の安全と健康を確保する姿勢は、アピールになります。発注者と従業員が安心できる労働環境を作っていくことが、今後の競争力を高めるうえで重要な要素なってくるのは間違いないと言えます。