法改正○健康と衛生

化学物質に関する法改正についての解説2 実施体制・健康診断・その他特別規則関係

化学物質に関する法改正についての解説2 実施体制・健康診断・その他特別規則関係

chemical management
前回は、自律的な化学物質管理に向けた法改正のうち、情報伝達とリスクアセスメントについての解説をしました。
前回の内容はこちらです。
今回は法改正の続きとして、実施体制と健康診断、その他について解説していきます。
これらは2023年4月1日にすでに施行になっているものもあります。また2024年4月1日から施行となるものあります。

1 実施体制の確立

1.1 化学物質管理者の選任義務化

(2024(令和6)年4月1日施行)
(安衛則第 12 条の 5)
化学物質者管理者については、別の記事で書いておりますので、こちらを参考にしてください。

1.2 保護具着用管理責任者の選任義務化

(2024(令和6)年4月1日施行)
(安衛則第 12 条の 6)
保護具着用管理責任者については、別の記事で書いておりますので、こちらを参考にしてください。

1.3 雇入れ時等教育の拡充

(2024(令和6)年4月1日施行)
(安衛則第 35 条)
労働者を雇い入れた時には、仕事のやり方とともに、業務上の危険有害性についても教育をしなければなりません。これを雇入れ時教育といいます。
雇入れ時等の教育のうち、特定の業種においては一部教育項目の省略が認められていましたが、法改正により見直しとなりました。
改正後は、危険性・有害性のある化学物質を製造し、又は取り扱う全ての事業場において、化学物質の安全衛生に関する必要な教育が必要となりました。
教育内容と省略が可能だった項目は次のとおりです。
  1. 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取り扱い方法に関すること
  2. 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取り扱い方法に関すること
  3. 作業手順に関すること
  4. 作業開始時の点検に関すること
  5. 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及びその予防に関すること
  6. 整理、整頓及び清潔の保持に関すること。
  7. 事故時等における応急措置及び退避に関すること
  8. 前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項
特定の業種とは、以下の業種以外の業種のことです。
林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業
特定の業種については、1~4の項目は省略が可能となっていましたが、これが撤廃され、危険性・有害性のある化学物質を製造し、又は取り扱う全ての事業場では、省略せずに教育しなければならないことになりました。

1.4 職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種の拡大

(2023(令和5)年4月1日施行)
(安衛令第 19 条)
職長とは、数人からなるグループのリーダーのことです。班長などと呼ばれていることもあります。危険性・有害性が伴う特定の業種では、職長教育を受けたものから選任することになっています。
従来の特定の業種は次のとおりです。
◯建設業
◯製造業 
 ただし、次に掲げるものを除く。
 ・食料品製造業・たばこ製造業(うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く。)
 ・繊維工業(紡績業及び染色整理業を除く。)
 ・衣服その他の繊維製造業
 ・紙加工品製造業(セロファン製造業を除く。)
 ・新聞業
 ・出版業
 ・製本業及び印刷物加工業
◯電気業
◯ガス業
◯自動車整備業
◯機械修理業 
製造業も全ての業種ではないことがわかります。
法改正により、製造業について、下記の業種が追加となりました。(上記の赤字)
  1. 食料品製造業 ※うま味調味料製造業と動植物油脂製造業は元々対象
  2. 新聞業
  3. 出版業
  4. 製本業
  5. 印刷物加工業
これらの業種でも、化学物質などの有害物を取り扱います。
印刷業では、胆管がんの問題なども発生したこともあります。このような背景もあり、作業場でしっかりと監督するリーダーが必要となりました。

1.5 衛生委員会付議事項の追加

(2023(令和5)年4月1日施行)
(安衛則第 22 条第 11 号)
従業員が50人以上の全ての事業場では、衛生委員会を接地しなければなりません。
衛生委員会については、こちらの記事を参考にしてください。
衛生委員会は、労使と産業医などが事業場の衛生管理(健康管理)についての話し合いを行います。衛生委員会の主な検討事項は次のとおりです。
  1. 衛生に関する規程の作成に関すること。
  2. 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置
  3. 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること
  4. 衛生教育の実施計画の作成に関すること。
  5. 有害性の調査並びにその結果に対する対策の樹立に関すること
  6. 作業環境測定の結果及びその結果の評価に基づく対策の樹立に関すること
  7. 定期に行われる健康診断、有害な業務に基づいて行われる医師の診断、診察又は処置の結果並びにその結果に対する対策の樹立に関すること
  8. 労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画の作成に関すること
  9. 長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること
  10. 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること
  11. リスクアセスメント対象物のばく露を低減する措置、関係労働者の意見聴取等に関すること
  12. 行政から文書により命令、指示、勧告又は指導を受けた事項のうち、労働者の健康障害の防止に関すること
上記の検討事項に加えて、次の内容も検討することが義務づけられました。
  1. 労働者が化学物質にばく露される程度を最小限度にするために講ずる措置に関すること
  2. ばく露管理値設定物質について、労働者がばく露される程度をばく露管理値以下とするために講ずる措置に関すること
  3. リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講ずるばく露防止措置の一環として実施した健康診断の結果及びその診断結果に基づき講ずる措置に関すること
  4. ばく露管理値設定物質について、労働者がばく露管理値を超えてばく露した際に実施した健康診断の結果、講ずる措置に関すること
化学物質取り扱いについて、労働者のばく露を最小にするための検討が加えられてことになります。
衛生委員会の設置義務がない、従業員が50人未満の事業場においても、上記の内容については、労働者から意見を聞く機会を設けることも必要となります。

2 健康診断

2.1 リスクアセスメント等に基づく健康診断の実施・記録作成等

(2024(令和6)年4月1日施行)
(安衛則第 577 条の 2 第 3 項~第 10 項)
リスクアセスメントでは、ばく露防止対策などを検討しますが、その効果も把握することが必要です。中でも、化学物質に関わる労働者の健康影響については、常時監視する体制が必要となります。
そリスクアセスメントの結果に基づきリスクアセスメント対象物による健康影響の確認のため、
事業者は、労働者の意見を聞くことが求められます。
そして必要があると認めるときは、医師または歯科医師が必要と認める項目の健康診断を実施します。
またばく露濃度基準が設定されている物質については、労働者のばく露状況について把握することが必要です。仮に労働者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときは、速やかに、医師等による健康診断をしなけれがなりません。
これらの健康診断を実施した場合は、記録を作成し、5年間保存しなければなりません。ただしがん原性物質に関する健康診断記録は、30年間保存しなければなりません。

2.2 がん原性物質の作業記録の保存、周知

(2023(令和5)年4月1日施行)
(安衛則第 577 条の 2 第 11 項)
「労働安全衛生規則第577条の2第3項の規定に基づきがん原性がある物として厚生労働大臣が定めるもの」の告示において、作業記録等の30年間保存が必要ながん原性物質を定められました。
告示においては、作業記録等の30年間保存が必要ながん原性物質の範囲を定めています。
範囲は、リスクアセスメントの実施が義務付けられているリスクアセスメント対象物のうち、国が行う化学物質の有害性の分類の結果、発がん性の区分が区分1に該当する物であって、令和3年3月31日までの間において当該区分に該当すると分類された約120物質です。(ただし、臨時で取り扱うエタノールと特化則に規定する特別管理物質は除きます)
がん原性物質は今後も増え、令和6年4月1日には約80物質が追加される予定です。
がん原性に係る指針対象物質は、厚生労働省で公開されています。
労働者にがん原性物質を製造し、または取り扱う業務を行わせる場合は、業務の作業歴を記録を30年間保存しなければなりません。石綿の健康診断とは異なり、労働基準監督署への報告は義務づけられていません。
これは、ばく露から長期経過後に、発症することもあるからです。

2.3 化学物質によるがんの把握強化

(2023(令和5)年4月1日施行)
(安衛則第 97 条の 2)
現在、日本国内では、約7~8万種の化学物質が製造や取り扱われています。そのうちリスクアセスメント対象物質は、1%未満に過ぎません。(令和5年4月1日現在で義務化されているのは674物質)
多くは、有害性が未知のままです。そのため規制がない物質を取り扱うことで、がんを発症する可能性が残り続けます。
化学物質を原因としたがんが発症した場合、その情報をいち早く把握し、対策強化を図ることが必要となります。そのため次の対策が求められます。
化学物質を製造、取り扱い等を行う同一の事業場にて、
  1. 1年以内に複数の労働者が同種のがんに罹患したことを把握
  2. 罹患が業務に起因する可能性について医師の意見聴取
  3. 医師がその罹患が業務に起因するものと疑われると判断した場合は、遅滞なく、その労働者の従事業務の内容等を所轄都道府県労働局長に報告
規制されていない物質やリスクアセスメントの対象外の物質は決して安全な物質ではありません。ただ現時点では、有害性が不明なだけです。
有害性が不明な物質は多数あります。仮にそれらの物質が原因でがんが発症した場合にはいち早く報告することで、被害が拡大しないようにしなければなりません。

3 その他特別規則関係

3.1 管理水準良好事業場の特別規則(特化則、有機則等)適用除外

(2023(令和5)年4月1日施行)
(特化則第 2 条の 3、有機則第 4 条の 2、鉛則第 3 条の 2、粉じん則第 3 条の 2)
化学物質の自律的な管理において、適切に管理されている事業場については、インセンティブがあります。その1つが特別規制の適用除外です。
化学物質管理の水準が一定以上であると所轄都道府県労働局長が認定した事業場については、その認定に関する特別規則について個別規制の適用を除外することができます。その代わりに特別規則の適用物質の管理を、事業者による自律的な管理(リスクアセスメントに基づく管理)に委ねられることになります。
所轄都道府県労働局長の認定は、事業者からの申請に基づき、特化則、有機則、鉛則又は粉じん則の省令ごとに別々に行われますので、注意してください。そのため特化則、有機則は個別に申請をしなければなりません。
自律的な管理が目指すところは、事業者が主体となって化学物質を管理することです。
将来、その成果が一定水準を超えたと認められる場合は、特化則等の特別規則を廃止することも検討されています。この措置は、特別則廃止を視野に入れた取り組みであると言えます。
超えるべき水準は次の通りです。
  1. 事業場に、専属の化学物質管理専門家を配置していること
  2. 過去3年間に、各特別規則が適用される化学物質等による死亡又は休業4日以上の労働災害が発生していないこと
  3. 過去3年間に、各特別規則に基づき行われた作業環境測定の結果が全て第一管理区分であること
  4. 過去3年間に、各特別規則に基づき行われた特殊健康診断の結果、新たに異常所見があると認められる労働者がいないこと
    粉じん則においては、じん肺健康診断の結果、新たにじん肺管理区分が管理2以上に決定された者、またはじん肺管理区分が決定されていた者でより上位の区分に決定された者がいなかったこと
管理体制が充実し、成果が出ていることが求められます。
化学物質管理専門家の要件は、衛生管理についての知識と経験を持つことです。
その基準となるのが、次の資格と経験を持つ人です。
・労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)として5年以上実務経験
・衛生工学衛生管理者として8年以上実務経験
・作業環境測定士として8年以上実務経験
・その他上記と同等以上の知識・経験を有する者(オキュペイショナル・ハイジニスト等)
なお、健康診断、保護具、清掃などに関する規定は、認定を受けた場合でも適用除外とならないので注意が必要です。

3.2 特殊健康診断の実施頻度の緩和

(2023(令和5)年4月1日施行)
(特化則第 39 条第 4 項、有機則第 29 条第 6 項、鉛則第 53 条第 4 項、四アルキル鉛則第 22 条第 4 項)
この項目も緩和に関するものです。
有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質等を除く)、鉛、四アルキル鉛に関わる労働者は、通常6ヶ月以内ごとに1回特殊健康診断を受診しなければなりません。
一定の条件を満たせば、この受診頻度を1年以内に1回に緩和することができます。
条件とは、作業環境管理やばく露防止対策が適切に実施されており、一定の要件を満たしたときです。
要件とは、以下のいずれも満たす場合です。
  1. 当該労働者が作業する単位作業場所における直近3回の作業環境測定結果が第一管理区分に区分されていること
    ただし、四アルキル鉛を除きます。
  2. 直近3回の健康診断において、当該労働者に新たな異常所見がないこと
  3. 直近の健康診断実施日から、ばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更がないこと。
これらの要件を満たす場合、次回の特殊健康診断を1年以内にすることができます。
判断に当たっては、次の点も配慮します。
要件を満たす判断は、事業場単位ではなく、労働者ごとに行います。この際、労働衛生に係る知識又は経験のある医師等の専門家の助言を聞くことが求められます。
しかし同一の作業場で作業内容が同じで、同程度のばく露があると考えられる労働者が複数いる場合、個別で判断すると煩雑になります。そのためその集団の全員が上記要件を満たしているなどを判断基準にします。全員が満たしている場合のみ、1年以内ごとに1回に見直す判断をするのが望ましいです。
なお、1で四アルキル鉛を除いた理由は、作業環境測定の実施が義務づけられていないからです。そのため判断基準としては、健康診断結果から判断するため、2と3の要件を満たすことが条件となります。
受診頻度の緩和については、都道府県労働局長や所轄労働基準監督署長に申請するなどは不要です。事業者が判断することができます。

3.3 第三管理区分事業場の措置強化

(2024(令和6)年4月1日施行)
(特化則第 36 条の 3 の 2、同第 36 条の 3 の 3、有機則第 28 条の 3 の 2、同第 28 条の3 の 3、鉛則第 52 条の 3 の 2、同第 52 条の 3 の 3、粉じん則第 26 条の 3 の 2、同第 26条の 3 の 3、石綿則第 38 条第 3 項、同第 39 条第 2 項)
作業環境測定の結果は、第一管理区分、第荷管理区分、第三管理区分に分けられます。
この中で第三管理区分は、環境が悪いため、すぐに改善が必要というものです。
改善の取り組みを行うに際して、次のことが義務づけられます。
  1. 当該場所の作業環境の改善の可否及び可能な場合の改善方策について、外部の作業環境管理専門家の意見を聴く
  2. 当該場所の作業環境の改善が可能な場合、作業環境管理専門家の意見を勘案して必要な改善措置を講じ、当該改善措置の効果を確認するための濃度測定を行い、その結果を評価する
これらの対応で改善すればよいのですが、中には改善しないこともあります。その場合には、さらなる措置が必要です。
作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合や、措置後に測定した結果が、依然として第三管理区分に区分された場合には、次のことを行います。
  1. 個人サンプリング法等による化学物質の濃度測定を行い、その結果に応じて労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる
  2. 呼吸用保護具が適切に装着されていることを確認する
  3. 保護具着用管理責任者を選任し、作業主任者等の職務に対する指導(いずれも呼吸用保護具に関する事項に限る)等を担当させる
  4. 作業環境管理専門家の意見の概要及び措置及び評価の結果を労働者に周知する
  5. 上記措置を講じたときは、遅滞なく当該措置の内容について所轄労働基準監督署に届け出る
第三管理区分とされている事業場で選任される保護具着用管理責任者は、他の職務と兼任してはいけません。必ず専任者を選びます。
これらの措置を行い、改善が確認されるまでは、次のことを義務づけています。
  1. 6月以内ごと(鉛の場合は1年以内ごと)に1回、定期に、個人サンプリング法等による化学物質の濃度測定を行い、その結果に応じて労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる
  2. 1年以内ごとに1回、定期に、呼吸用保護具が適切に装着されていることを確認する(フィットテスト)
第三管理区分の改善のためには、設備的な改善などが求められますので、計画的に進めていく必要があります。改善は進めていきつつ、仕事もしなければなりません。悪環境の中での作業において、呼吸用保護具などの衛生保護具の重要性が高まっていることがわかります。
呼吸用保護具などの保護具は、正しく装着、使用しなければ効果は半減します。そのため、保護具着用管理責任者が中心となり、着用状況を常時チェックが必要なのです。
フィットテストは、呼吸用保護具の着用状況を確認するために行いますが、現在義務づけられているのは金属アーク溶接作業においてのみです。正しい着用の確認のため、今後は金属アーク溶接作業以外でも重要性が高まってくるのではないでしょうか。
化学物質に関する法改正ついてまとめました。
中心となるのは、間違いなく化学物質管理者です。化学物質管理者の選任はを2024年4月から義務化されます。化学物質管理者にはリスクアセスメントを実施するに際して、知識や経験が求められます。
安全教育センターでは、化学物質管理者についての講習を行っております。
こちらも参考にしていただければと思います。
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