○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

牛黒、あわや鉄骨の餌食に

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第110話「牛黒、あわや鉄骨の餌食に」

猫井川がしばらく携わってきた土木工事の現場は、建築工事へと移り、数ヶ月は手を離れることになりました。

「あの現場を外れるのは久し振りですね。」

猫井川が鼠川にそう言うと、

「なんの、まだほんの少ししか行っていないじゃないか!
 お前言っておくが、野虎さんなんて何ヶ月もあの現場にいるんだぞ。
 工事によっては、1年とか2年とかいうのも当たり前だしな。」

「1年とか同じ現場にいると、飽きますよね。」

「そうだな。わしは昔ダムの工事にいたことがあるが、3年間同じ現場だったぞ。」

「3年間ですか。」

「おう。しかも山奥だったからな。
 今はあんまりないが、当時は飯場で寝泊まりしてたな。」

「飯場って何ですか?」

「工事関係者の宿舎みたいなもんだ。」

「そこに3年ですか。」

「ああ。とにかく暇でな。酒を飲むか、麻雀するしか楽しみがなかったぞ。」

「それはきついな。」

「冬は寒いしな。ストーブがなければ凍死だわ。」

「飯とかはどうしてたんですか?」

「それは作ってくれる人がいた。
 自分たちでなんて作れんし。飯が不味かったら、あんなとこずっとはおられんよ。」

「俺も遠出の時は、民宿とかに行きますけど、飯くらいしか楽しみないですもんね。」

「お前とかは、まだ街中の宿だから飲みに出られるが、山奥は出歩けんからな。」

「かなりストレス溜まりますね。」

「たまにだか、急にいなくなったやつもいたな。
 みんな特に気にもしなかったが。」

「怖っ!」

そんなやりとりをしながら、今日は別の現場に向かうのでした。
今日の現場は、倉庫の補修工事でした。

天井や梁のひび割れなどを補修します。
一時的なことなので、今回は足場を組まず、高所作業車を使うのでした。

「うちの会社で、高所作業車を使える人いるんですか?」

猫井川は、高所作業車と普段縁がないため、資格を持っている人に心当たりがありませんでした。

「何人かいたはずだぞ。確か牛黒も持っているはずだ。」

「そう言えば、ここは牛黒さんの現場でしたね。」

そんな話をしながら、しばらく待っていると牛黒が2人のもとに来ました。

「よう、お疲れさん。
 今日は頼むよ。」

牛黒の挨拶もそこそこに、鼠川が尋ねました。

「で、今日は何をするんだ?」

「高所作業車は俺が使うから、2人にはモルタルの運び込みとか撹拌とかをやってほしい。
 今日でこの一角をやりたいと思っているから、頼むよ。」

こうして牛黒は高所作業車に乗り込み天井の補修を行い、猫井川と鼠川はモルタルの準備をすることになりました。

しかしモルタルの準備といっても、さほどやることはありません。
そのため、2人は休み休み手を動かし、牛黒の様子を見ていたのでした。

「あいつも仕事に夢中になるから、ゴンドラを動かすときは、合図してやらないとな。
 お前、声を掛けてやれ。」

鼠川は、猫井川に合図者をやらせることにしたのでした。

しばらくは牛黒と猫井川の連携もうまくいき、何事もなく仕事は進みました。

しかし猫井川がモルタルの袋を取りに行こうと、その場を離れた時でした。

牛黒がコントローラーでゴンドラを操作して、横に移動させました。
牛黒は移動方向に背を向けて、天井を注視しています。ところがゴンドラの行き先には梁が天井から突出していたのです。
このまま動かしていけば、牛黒は梁に当たってしまう。それなのに牛黒は気づいていません。
そして鼠川も、モルタルの撹拌をやっていたので、牛黒を見ていませんでした。

あわやという時に、猫井川がモルタルの袋を抱え、倉庫に入ってきました。
そして牛黒の体が梁に当たりそうな様子を見たのでした。

「牛黒さん、後ろ!」

猫井川は大声で叫びました。
その声にはっとした鼠川は上を見上げました。

「牛黒、ストップしろ!」

牛黒は猫井川と鼠川の声を聞き、コントローラーで動きをストップさせました。
ストップさせた瞬間、牛黒のヘルメットにはコツンという軽い衝撃があったのでした。

振り返ってみると、梁がすんでの所まで迫っていたのでした。

「いやー、教えてくれて、助かったよ。」

何とも緊張感のない様子で、手を振る牛黒。

モルタルを運んできた猫井川に、鼠川は、

「目を離したらだめじゃないか。」

「いや、すみません。」

猫井川はそう言うしかありませんでした。

間一髪との思いを持った地上の2人をよそに、牛黒は気にもした様子もなく、仕事を再開していくのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回は高所作業車でのヒヤリハットです。

高所作業車は高所作業になるため、安全帯を使用したりすることが必要になります。
そしてゴンドラ上で、移動するために、コントローラーで操作したりすることもありますが、この時周辺の障害物を見落とすと大変なことになってしまいます。

場合によっては、牛黒のように作業に集中しすぎるあまり、周りが見えなくなることもあります。
そのため作業の様子を全体的に見渡すために、合図者などを配置しなければならないのてす。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット 高所作業車をゴンドラ上で操作し、移動していたら、梁に当たりそうになった。
対策 1.合図者の指示に従う。
2.操作時は、進行方向を目視する。

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