崩壊・倒壊○事故事例アーカイブ

土砂崩れ、1人死亡。防護柵の撤去中(大分県佐伯市)

entry-582

土木工事というものは、地面を掘ったり、山を削ったりと、地形を変える工事です。
つまり自然を相手にする作業と言っても過言ではありません。

自然を相手にするのですから、いつも人間の思い通りになるかというと、そんなことはありません。
むしろ無力さを実感することも少なくありません。

自然を相手にすることの脅威の1つが、土木工事中の土砂崩れです。

大分県佐伯市では、山裾の法面が崩壊するという事故がありました。

今回は、この事故の原因を推測し、対策を検討します。

index_arrow 事故の概要

事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。

土砂崩れ、1人死亡 防護柵の撤去中 (平成28年2月20日)

20日午前11時55分ごろ、佐伯市長良の工事現場で、「土砂が崩れて、人が生き埋めになっている」と、工事関係者から119番通報があった。土砂の中から会社員を救助し、市内の病院に搬送したが、約1時間後に死亡が確認された。死因は窒息死。

佐伯署によると、土砂崩れが起きたのは、のり面の補強工事現場。高さ15メートル、幅20メートル、奥行き10メートルにわたって、土砂が流れ出た。3人は、のり面に隣接する寺に土砂が飛ばないよう設置していた防護柵の鉄板(高さ3メートル、幅50センチ)を撤去する作業をしていた。他の2人にけがはなかった。同署は土砂崩れの原因を調べている。

工事を発注した県南部振興局によると、治山ダムの建設に伴い、山中に重機を入れるため、のり面を補強しながら仮設の作業道を造っていた。のり面に金網を張ったため、防護柵を撤去していたという。来週にもモルタルを吹き付ける予定だった。

大分地方気象台によると、佐伯では19日深夜から断続的に雨が降り、20日午前10時までの1時間に9・5ミリの雨量を観測した。

大分新聞

この事故の型は「崩壊・倒壊」で、起因物は「地山」です。

この事故が起こった日は雨でした。この雨はその前の夜から降っていたようです。
朝10時までには、1時間に9.5ミリと、まあまあ強い雨脚だったようです。

作業は、ダムの建設のために重機が入る仮設道を作るものでした。山の法面は事前に鉄板による防護柵を作り土砂崩れを防いでいました。その後法面そのものを固めるため金網を張り、モルタルを吹き付けて固める作業の段階で事故が起こりました。

金網を張ることで、山の法面が崩れ落ちることを防げたので、防護柵を撤去していたところ、金網を押し破り、土砂崩れが起こったのでした。
この土砂崩れに1人が巻き込まれてしまったのでした。

それでは、原因を推測していきます。

index_arrow 事故原因の推測

作業の進行は、防護柵→法面補強→仮設道作成と、計画に従い進められていたと思われます。
作業の流れは計画通りでも、予定通りに進まないのが工事です。
今回であれは、雨が作業予定を妨げるものになったようです。

雨が降ると土を扱う作業はやりづらくなります。
それは掘れば掘るほどわき水がでること、土が水を含み脆くなるとこなどがあります。
乾いている状態ならば、振動を与えると締め固まりますが、大量の水を含んだ状態だと、全然固まりません。

これは極端な例ですが、田んぼの土を捏ねても、すぐに形が流れ崩れるのに似ています。

雨の後だったので、防護柵で支えられていた法面は水を含み、崩れやすい状態だったのかもしれません。しかも法面の周辺は、防護柵設置や金網取付などの作業がされていたので、元の安定した状態から手が加わり、内部にき裂やヒビがあった可能性もあります。

そのような状態の中、防護柵が撤去されたので、支えを失ったのかもしれません。

大きな原因としては、雨の後の作業で、法面の点検がしっかりされておらず、事前に危険を察知できていなかったことがありそうです。

また工事着手にこの場所の地層や地質について調査が、作業工程に活かされていたのかも重要な点です。

それでは、原因を推測をまとめてみます。

事前の地質、地層調査結果が活かされていなかったこと。
雨天後の点検が十分でなかったこと。
防護柵撤去の振動が影響したこと。

それでは、対策を検討します。

index_arrow 対策の検討

山の斜面、法面は大量の水を含むと、内部にき裂ができ、崩れやすくなります。
台風など大雨の時、土砂崩れが起こるのは、短時間で一気に水が地面に染み込ませてしまうからです。

木が生えていれば、根が地面をがっちり掴まえてくれますが、むき出しの法面にはそのように支えてくれるものはありません。
そのため少々の水を含んだだけでも、ちょっとした振動で崩れる可能性もあるのです。

水の影響が大きい可能性がある場所だからこそ、作業前の調査や点検が重要なのです。

工事の計画段階や着工前には、現地調査が行われます。
現状の地形や、これから工事でどのような形になるのも重要な調査ですが、地質や地層についての調査も重要です。
これらの調査で、少々の水ではびくともしないのか、少しの水を含むだけで脆くなるのかを調べなければなりません。

もちろん、この調査結果は、実際の工事で活かされないと意味が無いのは言うまでもありません。

事前調査は作業の進め方を決めます。
作業の進め方がしっかり決まっていても、予定通りにいかないのが屋外の現場作業です。

雨が降れば、作業はストップします。

工程が遅れていれば、少々の無理も通したくなるのですが、安全は確保されなければなりません。
雨上がりであれば、き裂やヒビなど、土砂崩れの危険はないかの点検が必要です。

この事故時も、点検はされたのかもしれません。しかし見落としていたものがあったことは否定しきれないでしょう。
また法面だけでなく、法面の上部、法肩の辺りも点検しておく必要もありました。

法面にき裂などがあった場合、重機の振動はそのヒビを広げる可能性があります。この事故当時は、防護柵を撤去していたので、それなりの振動もあったと思われます。

雨天後の作業、少なくとも雨上がり直後の作業は、振動のない別の作業を進めるのも検討するのも1つの安全対策になったのかもしれません。

対策をまとめてみます。

地層や地質の調査を元に、作業計画を決める。
雨天後は点検する。
斜面では、雨天後振動作業を控える。

山の法面、斜面での作業は、土砂崩れを防ぐことが重要です。
そのためには、雨に限らず、作業前の点検はしっかり行うことですね。

index_arrow 違反している法律

この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。
【安衛則】

第355条
地山の掘削の作業を行う場合において、地山の崩壊等の危険を及ぼすおそれのあるときは、あらかじめ、作業箇所などを調査し、その結果をもとに、掘削の時期及び順序を定めなければならない。
第358条
明り掘削の作業を行なうときは、地山の崩壊等の危険を防止するため、作業前や悪天候後に点検を行わせなければならない。

これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。

掘削作業等での安全対策について

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA