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高さ20メートル送電線鉄塔で感電、作業員死亡(島根県奥出雲町)

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電気はとても身近なものですが、その危険度は知っているようで、普段の生活では気にされていないかもしれません。

家庭で使う電圧は100Vからは200Vを使うことが多いです。
これらは低電圧に分類されますが、それでもまともに体に浴びると致命傷になります。

もちろん電圧は高くとも、実際に流れる電流が低ければ被害は小さいかもしれません。
しかし致命傷を与えるだけのエネルギーを秘めているのは間違いありません。

「42Vはシニボルト」という言葉を聞いたこともあります。ほんの42Vの電圧であっても、命を奪う可能性をもっているのです。

電気は水道の水に似ています。
浄水場で作った水を各家庭に配るように、発電所で作った電気を各家庭や事業所、会社に送ります。

水道でも蛇口かち出る水の勢いは、取り扱いに困らない程度ですが、水道本管の中はかなり強い水圧がかかっています。
電気も発電機で作られ、送電線を通っているものは、かなりの高電圧なのです。それは50万Vという超高圧だったりします。鉄塔が谷から谷を超えて立っている姿を目にしますが、鉄塔を間を走る電線には、とてつもない電気が流れているのです。

こういった送電線を建てたり、メンテしたりするのは電力会社です。今度、発電と送電の事業者が分社化する可能性はありますが、今のところその役割は、東京電力や中部、関西電力といった会社が行っています。

さて、中国電力の管轄区域である島根県奥出雲町で、送電線のメンテ中に感電するという事故がありました。

今回は、この事故の原因を推測し、対策を検討します。

index_arrow 事故の概要

事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。

高さ20メートル送電線鉄塔で感電、作業員死亡 島根 (平成28年2月23日)

23日午後1時20分ごろ、島根県奥出雲町三成の送電線の鉄塔で作業していた中電工社員が感電し、搬送先の病院で死亡が確認された。島根県警雲南署が労災事故として原因を調べている。

作業を発注した中国電力などによると、高さ約20メートルの鉄塔の最上部で、部品を交換するため寸法などを測っていた。

救出に伴い送電を止めたため、奥出雲町などの約1万1200戸が約1時間にわたり停電した。

産経新聞

この事故の型は「感電」で、起因物は「送配電線」です。

この事故は、送電線の鉄塔で起こりました。鉄塔の最上部で取り替える部品の調査を行っている時に、感電してしまったのです。
部品の寸法を測るのですかさ、作業中は送電はストップしていなかったはずです。

高圧になると、直接触れなくとも、近づくだけで雷が落ちるように、電気が流れてきてしまいます。

感電した後、病院に搬送されましたが、残念ながら、亡くなられてしまいましてた。

それでは、原因を推測していきます。

index_arrow 事故原因の推測

この事故の原因は、近くに送電線があり、それに近づきすぎたことだと考えられます。
低電圧であれば、直接接触しないかぎり感電の可能性は低いです。しかし電圧が高くなればなるほど、近づくだけで感電します。

電気が通っている活線、特に高圧以上では、停電させて作業するのが望ましいです。
しかし送電線を止めると影響は大きいので簡単ではありません。

特に修理工事などであれば、送電線何本かの内、直接関係するものだけ停電ということもできるでしょうが、この事故の時は事前調査なので、停電まではできなかった可能性はあります。

特別高圧、超高圧の送電線は、とんでもなく危険です。生身の体では耐えられようはずがありません。
6600Vまでの高圧では、絶縁保護具は有効ですが、それ以上の特別高圧ともなると、役に立ちません。

近づかないということだけが、唯一の対策です。

ただ作業している本人は、集中しているのでうっかり近づきすぎということもあるので、近接限界の表示や監視者などを配置して、万全の体制でサギョウシます。

それでは、原因を推測をまとめてみます。

送電線に近づきすぎたこと。
活線作業用装置などを使用しなかったこと。
監視や近接限界の表示ができていなかったこと。

それでは、対策を検討します。

index_arrow 対策の検討

高圧以上の電線や器具は近づかない。これが原則です。

安衛則の第条では、次の通りの距離を保つことが定められています。

充電電路の使用電圧
(単位 キロボルト)
充電電路に対する接近限界距離
(単位 センチ
メートル)
22以下 20
22を越え、33以下 30
33を越え、66以下 50
66を越え、77以下 60
77を越え、110以下 90
110を越え、154以下 120
154を越え、187以下 140
187を越え、220以下 160
200を越える場合 200

電力会社では、これよりも距離を保ち、高圧の6600ボルト以下では、2メートル以上離れ、特別高圧の3万ボルト以下は、3メートル以上離れることを推奨しています。

かなり遠くから作業するしかありません。

作業者にも安全距離で作業していることが分かるように、ロープを張るなどして近接限界距離を示してあげる必要があります。
ロープを張るなどができない場合は、監視人に監視させるなどして対応します。

しかし距離をとることで安全を確保できたとしても、3メートルも離れていたら、どうやって仕事したらいいのでしょうか。

遠距離から作業するために、活線作業用装置や器具を使用します。

活線作業用装置とは、高圧や特別高圧などで使用されるものです。一例を上げると絶縁措置を施された高所作業車やロボットなどです。
また活線作業では、直接送電線や部品に触れないどころか、近づけないので活線作業用器具というものを使用します。絶縁素材のマジックハンドといった体のホットスティックなどが代表です。

これらを使い感電しないような作業を行います。

対策をまとめてみます。

送電線などから距離を保つ。
近接限界の表示や監視人を配置する。
活線作業用装置などを使用する。

発電所を管理したり、送電線を管理、メンテする中国電力などの安全対策は徹底しており、高度です。
それであっても事故を100%防ぐのは困難なようです。

そのような徹底的な対策を意識されているので、この事故の時も安全から逸脱した作業をしていたとは考えにくいです。
何かちょっとしたタイミングで感電したのではないでしょうか。

電気とは、それほどまでに扱いにくいものなのです。

index_arrow 違反している法律

この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。
【安衛則】

第344条
特別高圧の充電電路又はその支持がいしの点検、修理、清掃等の電気工事の作業を行なう場合においては、必要な離隔を取り、活線用器具等を使用しなければならない。
第345条
特別高圧の電路又はその支持物の点検、修理、塗装、清掃等の作業を行なう場合において、活線用装置の使用、離隔を取るなどの措置をとらなければならない。

これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。

感電防止 その5。 特別高圧電流が通っている電線の取り扱い。

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