○書評

書評「鳶 上空数百メートルを駆ける職人のひみつ」

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「鳶 上空数百メートルを駆ける職人のひみつ」
多湖 弘明 著  洋泉社 2014/5/10

現場の規律は「まるで刑務所にいるよう」!?建設現場の最上階にはとび職人専用の部屋がある!雨でも雪でも鳶は休みにはならない。ニッカボッカ、関西VS関東。タワークレーンは鳶が組み立てる!命をかけて働く鳶たちの実態!

私の会社は、高層建築に関わらないので、この本で紹介されているような鳶職の作業者と頻繁に関わることはありません。
関わるとすると、足場の組立です。その足場もさほど高いものではなく、数層程度の10メートルまでのものが多いです。

たまに現場に来て、足場を組んでくれる鳶は、段取り良く足場材を並べ、あっという間に組み立てていくのです。朝一番に現場に来て1層、2層程度の足場は午前中に終わらせて、颯爽と帰っていきます。

土木や設備などの業界は、高齢化が進んでいるなか、鳶は若い人が多いように思います。

そのため、鳶とがっつり関わっているわけではないのですが、どう見ても危険と隣り合わせの仕事です。安全について考えている身としては、鳶職が日々どんな仕事をしているかは興味があります。

そんな中、見つけたのがこの本でした。
その名も、「鳶」です。現役の鳶職の人が書いた本です。しかも鳶にどっぷりはまった著者は、鳶の作業服(ゴト着・いわゆるニッカポッカ)で世界を放浪されたそうです。

内容は、東京スカイツリーのような地上100メートル以上の場所で、命綱1つで身を支え、鉄骨を組み立てる鳶の仕事内容を写真とともに、かなり詳しく紹介しています。

写真のほとんどは、地上が見えないような高さで、細い鉄骨の上で仕事している様子です。高所恐怖症の人にとっては、恐るべき作業環境です。たとえ高所恐怖症でなくとも、身がすくむはず。
こんな場所で作業するなんて、とんでもない精神的タフネスさです。

一見すると、大胆で粗雑な感じに見えるものの、仕事は繊細で緻密です。ミリ単位の作業を行っているのです。

そして、とんでもなく高い場所での作業です。
一歩足を踏み外すと、命を落とすのは間違いありません。確実に死にます。

命を守るのは、一本の命綱、安全帯です。
これを着けていないと、無謀すぎますし、禁止されています。

24ページ、25ページには、安全帯のエピソードが書かれています。

妙な自信を持っていた著者は、安全帯を親綱に引っ掛けず作業をしていたところ、親方に蹴落とされたことがあるそうです。「死ぬ」と思ったそうですが、知らない間に親方が安全帯を掛けていたので、墜落せずにすんだそうです。 この体験で、落ちる恐怖を感じ、安全帯の大切さを痛感したそうです。
かなり荒っぽい方法ですが、身を持って恐怖を体感することにより、気持ちを引き締める効果はあったようです。

ある種自転車に乗れるようになるのに、転けて痛みを覚えるようなものでしょうか。

墜落の危険もあるのですが、同時に物を落下させる危険についても語られています。100メートル以上の高さから物を落とすと、下にいる人にとっては、かなりの恐怖です。

ほんの小さなナットであっても、100メートルの落差となるとかなりの加速がつき、破壊力も相当なものになります。
もし腰道具などを落とそうものなら、ナットどころではない破壊力になり、人に当たれば、命に関わります。そのため、鳶の腰道具は、全て落下防止のヒモが付けられています。

自分と人の命の危険と隣り合わせの仕事が鳶の仕事といえます。

鳶が隣り合わせる危険は、あらゆる場面にあります。
鉄骨の吊り上げ、組み立てる、クレーンを組み立てるなど、全ての作業に危険が伴います。

常に命の危険との戦いです。

著者も同僚を事故を亡くしたことがあるそうです。
本書の最後にそのエピソードが書かれています。

クレーンで吊っていた鉄骨が落下したとき、下にいた人が巻き込まれてしまいました。
重さ数トンの鉄骨が上から降ってきたのです。下敷きになった人は、身長が180センチ以上あったのに、それが数十センチになってしまったのです。21歳、まだまだこれからの人生の方が長かったはずの命が終わってしまったのでした。

病院で家族が駆けつけ、遺体と面会した時、聞いたこともない絶叫が響いたそうです。

鉄骨が落ちたのは、著者の眼と鼻の先。
命がこんなにもたやすく、思いがけなく失われてしまうのです。

映画「ドロップ」でも、鳶の作業中、事故に合うエピソードがありました。その中でも、恋人や友人の悲しみは見てるだけで、悲痛な思いがするものでした。

鳶は危険が隣り合わせの仕事です。
でも危険なだけではありません。職人のかっこよさを持つ仕事です。

この本を読んでみると、とりあえず職人はかっこいいと思うんじゃないでしょうか。
付け加えるなら、他の職人もかっこいいんですよ。

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