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書評「労働災害が発生したときの企業の対応・手続きハンドブック」

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「労働災害が発生したときの企業の対応・手続きハンドブック」

檜浦 徳行 著  日本法令 2012/01

「いざ労働災害が起こったら!?」元労働基準監督署長が、実務のすべてを徹底解説。

事故は、できれば起きてほしくないものです。
そして、起こしたくないものです。

安全衛生管理については、数十年前に比べると飛躍的に体制が整い、減災や防止のための対策が取られています。 事故件数は、ここ数年は下げ止まっているものの、減少しています。

とはいえ、ゼロではありません。
平成26年度で、約1000人の死亡者がいます。
休日4日以上の負傷を伴う事故は、約11万件発生しています。

事故が起こった時には、何をしなければならないか。 「次から気をつけようね」では、済まないのです。

事故直後は、いち早く被災者を救出するします。
その後、各関係機関へ報告を行なうことになります。

起こってほしくなくとも、起こるのが事故です。

もし事故が起こった時、どうすればよいのか。

それを網羅しているのが、今回の本です。
著者の樋浦さんは、元労働基準監督署長まで務めらられた方です。 在職中は、労災事故を多数取り扱われた、事故処理手続きのエキスパートといえます。

そんなエキスパートが一からまとめあげたのが、このハンドブックなのです。

index_arrow 事故が起こった時には

事故が起こった時の緊急対応としては、次のことが必要になります。

1.初期対応で、被害の拡大を防ぐ。
2.被災者の救出、病院搬送。社内の連絡を行なう。
3.被災者家族に連絡。
4.所轄監督署へ電話連絡する。
5.現場への立入禁止。現場保存。
6.事故調査に備え、発生状況をまとめる。

事故に慣れている人はいないでしょう。 慣れていないことが起こると、パニックになります。

もし事故が発生した時、冷静な場合は、1~6までのことが、できるかもしれません。
しかし、パニックの時は、現場も会社も、何をしていいのかわからなくなります。

パニックにならないためには、平時に備えることなのです。

事故対応の責任者は誰で、どこに情報を集めるのか。 各作業者の家族への連絡先を名簿化しておく。 会社や現場最寄りの病院を把握する。 監督署への通報内容フォーマットを作っておく。 などは、今すぐ準備できますよね。

忘れがちなのが、現場保存についてです。
事故発生時には、後々現場検証が入りますので、現場責任者に立入禁止措置を指示する必要もあります。

そのためには、事故発生時の体制を整えることです。 災害発生本部長は誰なのかを、決めておきます。 この体制構築は、非常に重要です。

この時重要なのは、被害拡大を防ぐこと、被災者を救済することです。
誰かが指示しなければなりません。 指示する人は誰なのか。

ちゃんと決めているでしょうか?

index_arrow 事故を報告する

初期対応が終わると、次は事故の調査と報告を行います。

労働基準監督署に報告を必要とする事故は、安衛則第96条と第97条にまとめられています。

このあたりは、こちらの記事をご覧ください。

事故が起こったら報告する。

つまり、重大事故と死亡事故、休日を伴う労災事故です。
休日を伴う事故は、発生後遅滞なく報告するものは、4日以上の休日を伴うものです。
4日未満の休日事故は、4半期に1度まとめて報告になります。

死亡事故などが発生したら、「様式第23号 労働者死傷病報告」というものを、所轄労働基準監督に提出します。

このハンドブックのいいところは、この報告書をどのように書いたらいいのかのサンプルがあるところです。
特に略図は、こう描けばよいのかと分かるのがいいですね。 略図は、事故の発生時の状況を描くのであって、地図や怪我の場所を描くのではないとのことですよ。

この他にも、事故報告書の書き方、労災保険関係の書類の書き方も例示されているので、参考になります。

いざ、報告しなきゃいけない時、社労士さんなどがいれば任せられますが、そうでない場合は何をどうしたらよいのか、わかりませんよね。

さらに、この本で紹介してくれているので、参考になるのがあります。

それは、社内の事故調査報告の書き方です。 こちらには決まった様式はありません。
社内で事故原因を分析し、今後の再発防止策を検討する場合には、必ず必要になります。

労働基準監督署または労働局に、再発防止策提出を求められるので、整理するのに便利です。

労働安全コンサルタントなどは、事故調査と再発防止策も行いますが、基本は自分たちで今後どうしていくかが大切です。

事故を見つめるツールも、このハンドブックに含まれています。

index_arrow 事故に備える

日本の安全文化は、言霊思想が阻害要因ではと考えたことがあり、そんな記事を書いたこともあります。

言霊のリスク - 言霊が事故を深刻化する

リスクマネジメントとは、ある種最悪のシナリオを考えることです。
もし失敗したらなどを考えると、引き寄せてしまうと考えてしまう人もいます。

目標達成のためには、この考え方はいいでしょう。
しかし、上手くいく想定のみでは、困ります。
それは、経営者として失格です。

成功と失敗は表裏一体なのですから、上手くいかない場合も想定します。

事故は、上手くいかないことです。 事故の備えは、防止だけでないのです。

事故が起こった時の事を考えて、準備することが、事故を招いてしまうと考えるのは、間違いです。
被害を拡大させない、いち早く事故に対応する体制は、平時の時にしかできません。 事故が起こってからでは、とてもじゃないですが、間に合わないし、整いません。

そんな事例はいくらでもあります。
不祥事後の記者会見で下手を打った例はどれほどあるでしょうか?

事故時の対応マニュアルが1冊あると、参考になります。
また事故時の体制を表にしておくと、迷う時間が減ります。

武士でいうところの「常在戦場」ではありませんが、いつも事故への備えをするのは大事なことです。
被災者も会社も、この対応で生死を分けると言っても過言ではありません。

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