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平成26年度の事故状況について、確定値が発表されました。 死亡事故は、前年度より微増し、1,057人(平成25年度は1,030人)であり、そのうち建設業の死亡者数も、377人(前年度は342人)と増加しています。
建設業で、最も多い事故は「墜落・転落」で148人。全体の約半分を占めていることが分かります。 「墜落・転落」は言うまでもなく、高いところから落ちる事故のことです。 家やビルなどの建物を建築する場合は、高所での作業が欠かせないため、この事故はついて回っています。
一方で、高所作業で忘れてはならない事故があります。 それが「飛来・落下」です。
「飛来・落下」とは、人そのものではなく材料や道具など物が落ちてきて、当たるという事故です。
地上数十メートルの高所で、ドライバーなどを工具を使用し、様々な材料を扱います。 それらの材料や道具を、ほんのちょっと作業床に置いておくこともあるでしょう。 その時、ほんのちょっと置き場所が悪いだけで、落下することもあるのです。
平成26年度は飛来・落下により18名の方が亡くなっています。
墜落・転落と合わせ、高所作業のリスクを物語るものではないでしょうか。
この飛来・落下の事故について、先日、鳥取県で死亡事故が起こりました。 工場建設作業中の事故です。
今回は、この事故について原因の推測と、対策を検討してみます。
事故の概要 |
事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。
頭に板が落下 71歳建設会社役員が死亡(平成27年5月26日)
26日午後4時ごろ、鳥取県倉吉市の工場建設現場で建設会社役員の頭に木の板が落下した事故で、被災者が27日午前2時40分ごろ、搬送先の病院で死亡した。
倉吉署によると、板は約3メートルの高さから落下。事故が起きた際、被災者はヘルメットをかぶっていた。同署は事故の原因や当時の状況について調べる。 |
この事故の型は「飛来・落下」で、起因物は「構造物(仮設物)」です。
それでは、原因を推測していきます。
事故原因の推測 |
記事から伺えるのは、工場建設工事にて、頭上より木の板が落下、被災者の頭部に当たったという状況のみ分かります。
この状況から、あれこれ推測を広げていきたいと思います。
まず工場建設であっても、作業場が屋外なのか、屋外なのかも判別できません。 いずれにせよ、頭上に材料があるということは、足場が組まれていたものと思われます。
2階以上の開口部から落ちてきた可能性もあるのですが。
足場等を設置する際には、構造的に法的に守らなければならないことがあります。 安衛則第563条が構造となります。
安衛則第563条の解説は、こちら。
通路と足場 その5。 足場の材料
高所で作業する場合に注意するべきことは、墜落・落下を防ぐことです。 この対策として、足場や開口部付近は、手すりや中さんなど設置します。
また同時に材料や工具の落下防止のために、幅木またはメッシュシートを設けなければなりません。 幅木は、足元に設置する板のことで、床に上に置かれた工具などが滑り、端から落ちないようにするためのものです。 メッシュシートは、足場の両サイドに網を張り、落下物が飛び出さないようにするものです。
この現場では、足場または開口部に幅木等が設置されていなかったのではないでしょうか。 もしくは、大きな板の場合、幅木の上に寝かせていたという可能性もあります。
また、もう1つ需要な要因があります。 何か落下してくるおそれのある場所に、立ち入って作業をしていたということです。
足場すぐ側や、開口部の真下などは、いかに落下防止対策をしていても、何かが落ちてくる恐れがあります。
そのような場所は、原則として立入りを制限する必要があります。
それでは、推測される原因をまとめます。
1 | 高所からの落下防止対策がなかったこと。 |
2 | 落下危険箇所に、立ち入っていたこと。 |
3 | 作業主任者が、監視していなかった。 |
4 | 安全教育やKYが行われていなかったこと。 |
被災者はヘルメットをかぶっていましたが、重量のあるものが直撃すると、ヘルメットでは役に立ちません。 頭部への外傷を免れたとしても、首などに深刻なダメージを追うことになります。
そのため、そもそも落下を防ぐことが対策としては最も大事です。 そして、危険箇所には立ち入らない。これも大事です。
どうしても、作業場では手早い作業が求められ、安全に関することが疎かになります。 作業手順等では、立ち入り制限箇所などは示されていたかもしれませんが、手っ取り早く移動するのに、危険箇所を突っ切ることもしばしば見受けられます。 これは大げさに表現すると、遮断機が降りている踏切を横断するようなもの。電車が見えないからといって、通り抜けしていると、とんでもない事故になりかねない状況です。
またコンクリートや木造建築で、5メートル以上の高さがある場合は、作業主任者を選任し、指揮させます。 作業主任者は、作業者が安全に作業するようにしなければなりません。
作業前に危険箇所等の確認と危険予知(KY)があったと思われますが、十分に機能していなかったのではと思われます。
それでは、対策を検討します。
対策の検討 |
対策としては、まず落下防止対策を行うことです。 幅木、メッシュシートを置くことですね。 また、作業前にはこれらの設備が正常かどうかを点検しておく必要もあります。
次に、立入禁止箇所を明確にすることですね。
そして、作業者には禁止事項や立入禁止箇所などを明確に伝え、徹底させるように指導する必要があります。
これらの対策をまとめてみます。
1 | 幅木やメッシュシートを設置する。 |
2 | 頭上から落下物があると予測される箇所は、立入禁止とする。 |
3 | 作業主任者は、作業者の安全作業を監視し、指導する。 |
4 | 作業者には、KYや安全教育を行う。 |
設備の保持は、元方事業者や事業者の責務です。 点検者を指名して、少なくとも作業前にはチェックさせます。
時には、作業時に幅木などが邪魔になるので、一時的に取り外すということも発生します。 すぐに復旧すればよいのですが、忘れてしまうということもあるでしょう。 このような場合、点検者はチェックし、復旧するようにします。
立入禁止箇所は、ただ図示だけでは不十分です。 カラーコーンとバリケードなど、明確にわかるようにする必要があるでしょう。 もちろん、立入禁止という表示もつけておきます。
これらの役割は、実際には作業主任者が行います。
安全教育は、ただ命令するだけでは不十分です。 大切なのは、やはりコミュニケーションになってしまいます。 ただ命令されるだけでは、言われた方も聞く耳がないのが、実状ではないでしょうか。
これは私の経験からの憶測ですが、被災された方は70代で、長年経験されてきた方のようです。 年配の方は、どうしても経験を優先する傾向があるのと、若い監督員に言われても、「今さらそんなことを言われなくても、わかっている」と思う傾向があります。
きちんと理解してもらうためには、伝え方は非常に重要です。 事実だけ、指示事項だけ伝えても、伝わっていないという現実もあるもんなんですね。
違反している法律 |
この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。
第563条 高さ2メートル以上の作業場所には、作業床を設けなければならない。 作業床は、適当な強度や構造、設備を設けなければならない。 6号 落下のおそれのある場合は、幅木、メッシュシートを設置しなければなりません。 これらの設置が困難な場合、または幅木等の取り外しを行う場合において、 立入禁止区域を設定した場合は、この限りではない。 |
この条文の解説は、こちら。 通路と足場 その5。 足場の材料
(木造建築物の組立て等作業主任者の職務) 第517条の13 木造建築物の組立て等作業主任者には特定の職務を果たさせること |
(コンクリート造の工作物の解体等作業主任者の職務) 第517条の13 コンクリート造の組立て等作業主任者には特定の職務を果たさせること |
これら条文の解説は、こちら。 作業主任者の業務 その2
(物体の落下による危険の防止) 第537条 事業者は、作業のため物体が落下することにより、労働者に 危険を及ぼすおそれのあるときは、防網の設備を設け、立入区域を設定する等 当該危険を防止するための措置を講じなければならない。 |
これは、未解説。
飛来・落下については、滋賀県で700キロもの大凧が落下し、1名が亡くなるという事故がありました。
100畳大の凧が落下、男性1人意識不明の重体 : 社会 : 読売新聞(←記事のリンクが切れてしまったようです)
上から落ちてくるという事故は、とっさで避けられないため、危険箇所には近づかないことが重要といえますね。