○書評

書評「警備員日記」

 

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「警備員日記」
手塚 正己著 太田出版 2013/11/13 KINDLE版

私は生活費を稼ぐため警備員になった。作家と警備員の二足のわらじを覆きながら、慣れない仕事に悪戦苦闘の日々が続く。
どこか常識の欠落した警備の仲間たちに振り回され、仕事を辞めようかという矢先、私の前に「師匠」が現れた―。警備員の織りなす奇妙奇天烈な群像劇。傑作「軍艦武蔵」の著者が、実体験をもとに書き下ろした警備員小説。

工事ある所に、警備員あり。

舗装などの道路工事はもちろんのこと、道路に接した敷地での工事などでは、必須といっても過言ではありません。

街をあるいていたり、車を運転している時に、警備している姿を目にすることも多いのではないでしょうか。

ビル警備や住宅展示場の出入りなどもありますが、建設業にとって、いわゆるガードマンこと警備員は、縁が深いものです。

読んでいて、警備員が作業現場の安全を担っているということを思い出させてくれました。

道路作業時に最も警戒しなければならないことは、作業時に車が突っ込んでこないことです。また車両の流れを停めてしまうわけにはいきません。

作業をしながら、そのようなことに気を配るのは難しいものです。
警備員は、そのようなことを忘れさせて、作業に集中させる人たちなのです。

作中でも、ありましたが、この警備員という仕事は、ただ立って誘導すればいいというものではありません。
センスが必要です。

著者や師匠、大師匠は素晴らしいセンスの持った人たちで、こういう人が現場に着いてくれると、安心できます。

しかし一方で、センスのない警備員。
ひどい時は、本当にひどい誘導をすることがあります。

以前、路上工事で警備に着いてもらった人は、率先して事故を誘発しそうなことをやっていました。

どのような誘導かというと、国道に接続する枝道での片側交互規制でしたが、国道で車が来ているのを見えておらず、枝道で停車している車を行かせようとしていました。

警備員がいるのに、クラクションが鳴らされまくるというのは、考えらないことです。
さすがに、これは怖かったです。

この仕事は1日だけの交通規制でしたので、二度とこの人が入ることはありませんでした。
それにしても、そんな人を派遣するなよという思ってしまいます。

また運転していて、片側通行規制を行っている時も、誘導センスの有り無しを感じることがあります。
何よりも困るのが、車道にはみ出して立っている人です。
危なくて仕方ありません。

作中でも、1人片交規制中に、車道にはみ出して立っており、車と接触するという事故も起こっていました。

警備員は、現場の安全を守らなければならないとともに、自分の身の安全も確保しなければならないのです。

作中では、著者は小説を書き上げる間、警備員という職業に就いています。
期間にして2年ですが、その中で濃い面々と付き合っていました。

まずは師匠。
現場で警備についてを仕込むだけでなく、その考え方、仕事に対する姿勢など、大きな影響を与えます。
警備の仕事をしていなくとも、仕事をキッチリする人だろうと感じさせてくれます。

こういう人が現場を仕切っていてくれたら、安心するでしょうね。

そして、師匠以外の多くの魅力的でない人たち。
現場で警備員を見ていると、ああこんな感じの人確かにいるなと感じさせてくれます。

資格も不要で、手っ取り早く、金になるからか、色々な人たちが集まってくるのでしょうか。
中には二度と仕事したくない人もいます。

寒い中、暑い中、1日中立っているのですから、大変な仕事であることには間違いありません。
夜中の工事現場では、一晩中交通誘導をしている姿を見かけます。

誘導以外は基本的に立っているだけなのですから、何時間も退屈さと戦わなければなりません。
著者もビルの警備は嫌だと言っていましたが、何もすることがない時は、時間がゆっくり流れる気がするものです。

1時間くらい過ぎたかなと時計を見てみると、まだ10分程度だったというのは、経験があるのではないでしょうか。
それを8時間続けるのですから、感服していまします。

退屈さと戦うものの、警備員は危険の最前線にいることも間違いありません。

実際に、警備員が事故にあうということも少なくありません。
熱中症で倒れるということも、少なくありません。
そのため結構、心構えが重要で、誰でもやっていいものではないでしょう。

この作品は、小説というものの、ルポのように現実的です。

警備員の仕事について描いているだけでなく、警備をする人たちの姿が活き活きと描かれ、印象に残ります。

大半を占めるでっぷりとした腹の持ち主、不潔でいい加減な中島、粉を吹く関口、歯のない藤堂、威張るだけの杉山室長と、その多くが魅力的でない人たち、一緒に食事に行ったりしたくない人たちです。
一方では、師匠西崎や、警備から足を洗い就職を果たす尊敬すべき人がいます。
そして、男と女の間で揺れ動く光男。

微妙なまでの人間模様が、この作品の魅力ではないでしょうか。

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