○安衛法と仲良くなる土木工事・土止め支保工

地山掘削作業の時の土砂崩れ防止

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地山の掘削では、土砂崩れの危険があります。

そして、時として大きな災害となり、多数の死傷者を出す事故に至ることもあります。

大きな事故があると、同種の危険を防止するために通達が出されることがあります。

最近の出来事で言うと、平成26年1月9日に起きた三重県四日市市で起こった、三菱マテリアル四日市工場での爆発事故です。
この事故では、5人が死亡し、13人が怪我を負いました。

この事故を受けて、平成26年6月26日に「三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を踏まえた保守・点検時等の事故防止に係る行動計画の策定について(要請)」と「三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を踏まえた保守・点検時等の事故防止に係る留意事項について」の通達が出されています。

大きな事故は、当事者にとってとても痛ましいものに違いありませんが、今まで着目されていなかった点に、スポットが当てられる契機ともなります。

土砂災害においても、大きな事故がきっかけで見直し、防止策の強化ということがあるのです。

地山の掘削作業で、このような景気になったものは、平成元年5月22日に発生した、株式会社熊谷組野川健康センター新築工事現場での土砂災害事故です。

この事故では5名もの方が亡くなりました。とてつもなく大きな事故であったと言えます。
この事故については、改めて事故事例で取り上げたいと思いますが、今回はこの土砂災害によって、発令された、通達をまとめていきます。

この件での通達は、災害発生直後と翌年の2度に渡って出されています。

まずは、発生直後の通達です。

平成元年6月22日 基発第338号
地山の掘削作業における安全衛生管理状況の総点検について

去る5月22日、株式会社熊谷組(仮称)野川健康センター新築工事現場に
おいて地山の掘削作業中、土砂崩壊により、死亡者5名を含む7名が被災する
という重大災害が発生した。

本省においては、特別調査団を設置する等災害原因と再発防止対策について
鋭意調査・検討中であるが、事態の重大性にかんがみ、標記のことについて
別紙により関係業界団体に対し要請を行ったところである。

ついては、各局においても、関係事業場において総点検が的確に行われるよう
指導を行うとともに、必要に応じ、監督指導を実施する等再発防止対策の
徹底に遺漏なきを期されたい。

別紙

地山の掘削作業における安全衛生管理状況の総点検について

(社) 日本建設業団体連合会
(社) 日本土木工業協会
(社) 建築業協会
(社) 全国建設業協会
(社) 全国中小建設業協会 会長殿

労働災害の防止について、労働省は、本年2月、労働災害防止緊急対策本部を
設置する等、特に、死亡災害の撲滅をめざして、種々の対策を推進している
ところでありますが、去る5月22日、株式会社熊谷組
(仮称)野川健康センター新築工事現場において地山の掘削作業中、
土砂崩壊により、死亡者5名を含む7名が被災するという重大災害が
発生したことは甚だ遺憾に堪えないところであり、労働省においては、
特別調査団を設置する等災害原因と再発防止対策について調査・検討を
進めているところであります。

ついては、貴団体におかれては、会員企業に対し、下記事項に重点を
おいた地山の掘削作業における安全衛生管理状況の総点検の実施、
問題のある事項についての確実な改善について徹底されたく、
要請をいたします。

            記

1)工事の計画段階における安全衛生の確保

(1)作業箇所等の地山についての事前調査の実施
(2)(1)の調査結果に基づいた工事計画の樹立

2)掘削作業における危険の防止

(1)地山の状況に応じた安全な掘削こう配の設定
(2)地山の状況に応じた堅固な土止め支保工の設置
(3)地山の掘削作業主任者及び土止め支保工作業主任の
    選任並びにそれらの者の職務の履行
(4)作業箇所等及び土止め支保工の点検の実施

野川健康センター新築工事現場では、掘削作業中にとてつもなく大きな災害が起こってしまいました。
この事故の調査や原因の解明、対策について進めていくことも大事ですが、何よりも他の現場でも、同様の事故が起こることを防がなければなりません。

そのための緊急通達と言えます。

通達の内容は、地山の掘削作業について、安全の点検を行うことです。

これを団体を通し、実施させようとしたのでした。

点検の内容は、計画と安全衛生体制の確立です。
そして、掘削作業における、危険を防止することです。

もう一度作業内容を見直し、確認してくださいという趣旨ですね。

例を挙げると、次のことです。
土質に合わせた勾配は安全な基準以内か?
土止め支保工は適切か?作業主任者を選任しているか?
作業前の点検を行っているか?
です。

全て安衛則で規定されているものではありますが、事故を受けて、徹底することを求めています。

この事故は、緊急で通達を出さなければならないほど、インパクトの大きな事故だったと言えます。

事故から約1年後、再度、土砂崩壊災害防止についての通達が出されます。

内容は、事故調査を踏まえてのものですが、建設工事の現場作業での安全管理について、見直す契機になったといえます。

平成2年5月25日 基発第304号
土砂崩壊災害防止対策の徹底について

労働災害の防止については、特に死亡災害の撲滅をめざして、
種々の対策を推進しているところであります。

しかしながら、昨年5月22日、(仮称)野川健康センター新築工事現場に
おいて、土止め支保工の倒壊により土砂崩壊が発生し、5名が死亡、
2名が負傷するという重大災害が発生したことは誠に遺憾に
堪えないところであります。

労働省では、本災害の重大性にかんがみ、特別調査団
(団長 丸安 隆和東京大学名誉教授)を設置し、現地調査を
はじめとして災害原因の究明と同種災害の防止対策の検討を
行ってまいりましたが、今般、この調査結果が別添のとおり
取りまとめられたところであります。

ついては、貴協会におかれましては、下記事項に留意の上、
適切な土砂崩壊災害防止対策を講ずるよう、会員事業者に対し
周知徹底されたく、要請します。

           記

1)地質等の調査

 地山の掘削の作業を行う場合において、あらかじめ、作業箇所
 及びその周辺の地山について地質調査 を行うことは当然のことである。
 特に、現場全体が傾斜地となっている場合等であって、土止め支保工
の設置箇所の地質等の状況が明らかでないときは、当該箇所に
 ついて地質等の調査を行うこと。

 さらに、工事の進行に伴い、掘削時に確認した実際の地質等が
 着工前の調査結果と異なり、設計や施工計画の基礎となっている
 データと食い違いがあることが判明したときは、施工計画の変更、
 部材の補強等の必要な措置を直ちに講ずること。

2)土止め支保工の設計

土止め支保工の設計については、資材の調達上の理由、
 経済的な理由等を優先した設計ではなく、労働災害の防止という
 目的にかんがみ、安全性を優先した設計を行うこと。

3)土止め支保工の施工

土止め支保工を組み立てる場合は、土止め支保工の部材の材質、
 寸法、配置、取付け時期、取付け順序等を明記した組立図を作成し、
 その組立図どおりに施工すること。さらに、施工段階においては、
 組立図どおりに施工されていることを必要に応じ確認し、
 施工精度の確保を図ること。

4)土止め支保工の計測管理

 土砂崩壊のおそれのある大規模な掘削工事において使用する
 土止め支保工については、目視点検だけでなく、必要に応じ、
 土圧計、歪み計、傾斜計、トランシットその他の機器による
 監視を行うこと。

 また、アースアンカーについては、設置後に強度確認試験を実施し、
 その結果を記録しておくこと。

5)労働災害発生の急迫した危険がある場合の措置

 土止め支保工の倒壊に直結するおそれが判明した場合等、
 労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、
 労働者を安全な場所に退避させること。

6)安全管理体制等

(1)マニュアル、安全基準等に基づく店社の指導体制

  土止め支保工は現場の安全施工上不可欠なものであることを
  十分に認識し、店社においては、その設計、計算、施工についての
  マニュアル、安全基準を作成する等、現場に対する指導体制を充実
すること。

(2)施工計画の審査等

  計画の届出については、法定の期日までに届け出なければならない
  ことを徹底すること。
  また、店社における施工計画の審査については、十分な資料に
  より慎重に検討し、実効が上がるものとすること。
  さらに、審査段階での指摘事項については、現場における
  改善状況を必ず確認すること。

(3)施工管理体制

  土砂崩壊のおそれのある大規模な掘削作業を行う場合には、
  掘削作業、土止め支保工等について十分な知識、経験を持った者を
  現場に常駐させるとともに、現場及び店社において、その施工内容
  についてチェックできる体制を確立すること。
   また、店社が行う安全パトロールについても、現場の不安全箇所の
  指摘にとどまることなく、現場の施工が計画どおりに行われているか
  を確認すること等により現場の施工管理上の問題点の把握に努めること。

この通達は、事故の特別調査を踏まえてのものになります。

簡単にまとめると、調査と計画を入念に行うこと、店社と現場が一体になった安全管理を行うことが趣旨のようです。

事故の直接的な原因は、土止め支保工の根入れが浅く、土圧に耐え切れなかったことにあります。

ではなぜ、そのような施工になったのかいう背景を追求したら、このような内容になったのでしょう。

地山の掘削作業において、着手する前には、必ず現地調査をしなければなりません。
地質や形状、含水、湧水、地下埋設物などは土地によって異なります。
これらの特性を踏まえた上で、計画を建てなければなりません。

土止め支保工も、この調査によって計画を立てます。
砂質土であれば、矢板の根入れは深くする必要があります。
地下水が高いようならば、土止めだけでなく、地文字色下水排除の仮設も必要です。

土止め支保工の計画には、土止め支保工作業主任者も参画しなければなりません。
作業主任者の立場から、安全で強固なものを備える必要があるのです。

作業主任者は、現場でも直接指揮し、施工が適切に行われているか、安全に作業が進められているかなどの監視を行います。

施工にあたっては、随時正しく行われているかを、計測器を使って監視します。
アースアンカーなどは、強度不足だと効果が薄いので、きちんと検査を行うのです。

土止め支保工は、正しく行われてこそ、本来の効果を発揮するのです。
中途半端な状態でしかないのに、穴の底で作業するのは溜まったものでありません。

土砂災害防止のための対策ですが、これは作業時のみ気をつければいいというものでは、ありません。

店社(会社)と現場が一体となった安全管理体制が大切なのです。

特に店社は、現場任せにしていてはダメです。

作業計画を審査し、必要があれば指摘したり、指導を行います。
作業が始まっても、適宜安全パトロールなどで確認する必要があります。

現場のことは全て、現場責任者に任せていますでは、困るということなのです。

現場サイドも、別途監視の目があれば、緊張感を持って業務に当たるでしょう。

現場の事故の背景には、店社と現場が、不干渉になっている状況があるのかもしれません。

互いにチェックするところはチェックし、協力するところは協力する体制が、建設業においては事故防止になるのかもしれません。

大きな土砂災害によって、掘削作業はより安全性の高い作業が求められるようになりました。
土止め支保工も、先行工法などが開発され、より安全な方法が試みられています。

しかしながら、今なお土砂災害事故が絶えません。

地山の掘削は、土木業においては、ほぼ日常的に行われます。
あまりにも慣れた作業になっているのです。

その慣れた作業は、行動を大胆にし、油断や過信を生んでいるのではないでしょうか。

これくらいの深さなら、短い時間だから土止め支保工はいらないと判断し、作業していたところ、土砂崩れに巻き込まれてというケースは、つい最近も発生しています。

どんなベテランでも、いつ土砂が崩れるかを完全に予測できません。
そして巻き込まれたら逃れるすべはありません。

現場では作業責任者が仕切りますが、その責任者をコントロールするのは店社の責任です。

1つの事故の背景には、会社の安全を含めた管理体制があります。

この通達が出されたきっかけとなった事故は、もう25年以上前ですが、今なお色あせず、いつでも起こり得る事故であることは間違いありません。

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