○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

犬尾沢、型枠でぱっくりと裂ける

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

建物鉄筋と型枠の作業を終え、犬尾沢ガウたちのチームは会社に戻ってきました。

戻ってくると、猫井川は、救急箱に向かって行きました。

「さっき、鉄筋で転びそうになった時に、すねを打っちゃったみたいなんで、湿布もらってきます。」

湿布を1枚取り、自分の席で裾をまくり上げてみると、ぶつけた場所が青くなっているのでした。

「うわー。意外と強く打ったのね。」

隣で、保楠田が覗き込みながら、言います。

「鉄筋に足を突っ込んでしまった時に、ぶつけたみたいです。
 仕事してる時は、痛くなかったんですけどね。
 だんだん痛くなってきまして。」

そう言いいながら、湿布を貼っていると、後ろから声がかかりました。

「おう、猫井川。また何かやらかしたの?」

振り返ると、羊井メェ(よういめぇ 36歳)です。

羊井は、猫井川たちとは違うチームのリーダーなので、作業をしているので、別の現場で仕事をすることが多いのです。

羊井たちのチームも現場作業を終え、会社に戻ってきたのでした。

「ええ、配筋の上を歩いてて、足を踏み外しちゃいまして。」

「ははは。相変わらずだなー。
 また犬尾沢に怒られたのか?」

笑いながら、羊井が尋ねます。

「怒ってねーよ。
 いつもそんなに怒らねえよ。」

その会話を聞いていた、犬尾沢が口をはさみます。

「いやいや、犬尾沢は気が短いからなー」

羊井も犬尾沢に返します。

「今回は、怒られてないですよ。
 むしろ、倒れそうなところを助けてもらいました。」

猫井川は、羊井に言います。

「ほう。それは珍しい。」

笑いながら、羊井が言いました。

「あ、そうだ。
 その時、保楠田さんが、昔、犬尾沢さんも同じようなことがあったとか言ってましたけど、どんなことがあったんですか?
   
 その話をしようとしてら、犬尾沢さんが怒ってましたけど。」

昼間、犬尾沢が話をストップさせたので、忘れていたのですが、保楠田から昔の話を聞こうとしたら、犬尾沢から「仕事しろー」と怒られたのでした。

「ん、何の話?」

羊井が食いつきます。

「いやね、昔、犬尾沢くんが配筋してたときに、転びそうになったのあったじゃない。
 ふと、その時にことを思い出して、猫ちゃんに話そうとしてたんだよ。

 あの時は、羊井くんもいたんじゃなかったかな?」

保楠田が答えると、羊井は思い出したように言いました。

「あー、そういえば、何かあったかも。
 でも、それって、10年位まえじゃない。
 
 保楠田さん、よく覚えてるね。」

「いや、ふと思い出したんだよ。」

2人の会話を聞いていて、猫井川が口をはさみます。

「昼間聞きそびれたんですけど、どんなことがあったんですか?」

ちらりと犬尾沢の方を横目で見ると、少しむっとした感じがありますが、話を止めさせようとする素振りはありません。

「んー、じゃあ、軽く話そうか。
 ヒヤリハットということでな。

 まあ、これを聞いて、猫井川は気を引き締めろ。」

羊井はそう言うと、話し始めました。

「これは、大体10年くらい前で、おれも犬尾沢や保楠田さんと同じ現場だったんだよ。」

10年前、犬尾沢や羊井は、まだ若く仕事に少しずつ覚えている時でした。

その日は、鼠川チュウ一郎(そがわちゅういちろう 当時52歳)をリーダーとする現場に入っていました。
作業内容は建物基礎の配筋と型枠工事です。

配筋は組み上がり、保楠田と羊井は型枠用のコンパネを組み立てていたのでした。

「おい、犬尾沢。
 型を組む前に、配筋がきちんと組めてるかチェックするぞ。」

鼠川は、犬尾沢に指示し、鉄筋を固定している鉄線が緩んでないか、足りているかなどを見て回ろうとしました。

配筋の上を歩きながら、鼠川は犬尾沢に説明します。

「いいか。配筋する時に、こうやって鉄線でくくるけど、数が足りないと、コンクリ打った時に、崩れるから、よく見とけ。」

鼠川はノシノシと歩いていきますが、細い鉄筋の上を歩き慣れていない犬尾沢は、恐る恐る歩いています。

「そういえば、お前、最近太った?」

配筋の確認していると、鼠川は唐突に訪ねてきました。

「ええ。最近ちょっと。
 結婚してから、食べるようになりまして。」

「ははは、なるほどな。
 この前結婚したばかりだもんな。
 嫁さん、料理うまいのか?」

「そうなんですよ。それで、肉がついてきちゃいまして。
 ズボンなんか、少しきつくなってきました。」

「それは、いいな。
 まあ、太り過ぎには注意だけど、仲がいいのは、よいことだ。  わしのとこは、離婚したからな。」

2人で配筋の状態を確認し終えたころ、保楠田たちは型枠を組み終えていました。

「コン、もう型できる?」

「とりあえず、組んだとこなんで、これから固定ですね。」

「よし。それじゃ、犬尾沢、わしらはセパを取り付けていくぞ。」

型枠にコンクリートを打ち込むと、内圧がかかります。
そのため、型枠ずれて、隙間ができたりしないように、がっちりと固めなければなりません。
対策として、型枠に鉄筋を通し、この鉄筋に金具を取り付けて、角パイプなど固定するのです。
つまり、型枠を組んだ形にキープするためのものなのです。

しかし型枠を通した鉄筋は、型枠から飛び出しているので、後々コンクリートが固まったら、突き出している分を折り、穴を埋めます。

鼠川はこの作業を犬尾沢と一緒にやろうとしているのです。

「おい、犬尾沢、セパ材持ってこい」

「はい」

鼠川に言われ、犬尾沢は材料を取りに行きました。

「犬尾沢は、セパ付けは初めてか?」

「はい、やったことないです。」

鼠川に聞かれ、犬尾沢は答えます。

「よし、とりあえずこんな風にするからな。」

鼠川は、まずは自分で手本を見せるように、作業を始めました。

「いいか、ここをしっかり固定しないと、コンクリが流れるからな。よく、締めるんだぞ。

 よし、次はお前がやってみろ。」

自分で1つやってみせると、次に犬尾沢にやらせてみます。

見よう見まねですが、型枠に穴を開け、鉄筋を取り付け、固定します。

「よしよし、もう1個やってみろ。」

そうやって、犬尾沢にいくつかやらせながら、指摘をしたりしていました。

「これで、大体わかったな。
 わしは、こっち側の列をやるから、犬尾沢は別のところを進めていけ。
 わかってると思うけど、しっかり固定して、締めるんだぞ。」

「はい。それじゃ、やっていきます。」

大体、作業内容が分かった犬尾沢は、張り切って、今作業していたところと反対側の面に向かいました。

よし、ここからやろうと思い、型枠に足をかけようとした、その時です。

「あ、犬尾沢!まだそこの型は立ててるだけで、釘打ってない。」

羊井が、型枠に足を掛けた犬尾沢に、焦って言いました。
そう言い終わるやいなや、立てているだけの型枠は外側に倒れていきました。

「えっ?」

犬尾沢は足は、倒れる型枠に引きづられるようにして、どんどん開脚していったのです。

「おおおお!?」

何とか倒れないようにバランスを取ろうとしますが、どうにもできません。
足は引っ張られていきます。

バリ!!!!

型枠が倒れると同時に、何かが裂ける音がしました。
型枠のコンパネが倒れた音にしては、変な音です。

犬尾沢はというと、大きく足を開いていますが、何とか倒れずに踏ん張っています。
ところが、何か様子が変です。

「犬尾沢、大丈夫か?」

3人が声をかけます。

「だ、大丈夫です。
 でも、股が。。。」

よくよく見てみると、犬尾沢のズボンの股の部分が、ぱっくりと破れているのでした。

「なんだ、それは!!! あはははははは」

鼠川、羊井、保楠田は大笑いです。

顔を真赤にしている、犬尾沢。
作業服のズボンの間から、ハート柄のパンツが見えているのでした。

「さっき太ってきたとか言ってたもんな。
 ズボンもパツンパツンだったんだな。ははは。」

鼠川は大爆笑しながら、言いました。

「とりあえず、パンツ出しながら仕事もできんから、カッパの下でも履いとけよ。」

そう言われて、そそくさと犬尾沢は、カッパを履きに行ったのでした。

・・・

「と、まあ、こんな感じだったんだよ。」

羊井は、そう言って、話し終えました。

「いや、ちょっと待て。
 ハート型のパンツは履いたことないぞ!」

犬尾沢が否定します。

「あれ、そうじゃなかったっけ?」

羊井がとぼけると、犬尾沢はさらに続けます。

「そんなわけないだろう!」

「まあ、パンツの柄はともかく、昔は犬尾沢もあれこれやらかしてたんだよな。」

羊井は、猫井川に言いました。

「まあ、確かに、この仕事をしてると色々あるけど、鼠川さんとやってた時は、羊井もやらかしてるだろう。」
犬尾沢が言います。

「あれ、そうなんですか。
 どんなことがあったんですか?」

猫井川が、犬尾沢に聞きました。

「まあ、例えばだ・・・」

犬尾沢は、復讐と言わんばかりに、羊井の話をしようとしたのでした。

今回は、犬尾沢の過去のヒヤリハットを紹介しました。

新しい登場人物として、羊井メェと過去の上司、鼠側チュウ一郎が登場しました。

今はリーダーとして現場を仕切る、しっかりものの犬尾沢も、たくさん失敗し、経験を積んで来ているのです。
犬尾沢は10年前に、結婚していたんですね。

次は、犬尾沢とほぼ同期の羊井のエピソードになります。

さて、今回のヒヤリハットも、鉄筋の組立、つまり配筋と、型枠の時の出来事です。

セパ、セパレーターといいますが、型枠がコンクリートの内圧に押され、変形したり、隙間ができないように固める器具を取り付ける作業中に起きたことです。

型枠は、コンパネ切ったり、釘で重ねたりして、所定の形にしていきます。
このお話では、基礎部なので、それほど変わった形ではなく、形は長方形でしょう。

最終的にコンクリートが出来上がる形に、型枠を組んでいき、まずは型枠が接している面通しを釘で固定していきます。
その後、セパ取付や、支え棒などで強固にしていきます。

鼠川がせっかちなのか、型枠の組立とセパ取付を同時にやろうとしてたところ、まだ立ててるだけの型枠の上に乗ってしまって、転びそうになったのでした。

犬尾沢も作業の進行状況を把握できていなかったので、まだ未着手の部分に手を出したのでした。

自分だけでなく、周りの作業の進行状況を把握するは大切なことです。
仕事には順序や段取りがあるのです。

ちょっと作業を先に先にと進めすぎましたね。

さて、今回のヒヤリハットをまとめてみたいと思います。

ヒヤリハット 固定していない型枠の上に足を乗せたら、倒れた。
対策 1.周りの作業進行状況を確認する。
2.不用意に型枠に足をおかない。

型枠は板でしかないので、仮に固定されていた状態の時に、足を乗せてしまっても、倒れるかもしれません。

不安定な足場では、作業も十分にできないのです。
この場合であれば、それほど配筋や型枠の高さも無いのですから、地面に立って作業するのがいいですね。

失敗を重ね、反省を重ね、身につけていくものもあります。
犬尾沢もたくさんの失敗を重ねて、成長してきたんですね。

新たな登場人物も出てきました。
犬尾沢チーム以外のチームも登場してきました。

これによって、また色々なヒヤリハットが登場してきそうですね。

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