崩壊・倒壊○事故事例アーカイブ

擁壁、コンクリートブロック倒壊の事故事例

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先日、東京渋谷での土砂崩れ事故、また静岡県函南町でのコンクリート壁倒壊事故について、事例紹介を行いました。

建設業、特に土木工事は、土を掘ることが、最大の仕事ですので、土砂崩れはいつ起こってもおかしくありません。

土砂崩れを防止すためには、土止め支保工を設置すること、崩れないように法面には勾配をつけるなど一定の対策が講じられています。
しかしながら、倒壊・崩壊事故は一向に減りません。

倒壊・崩壊事故は、墜落・転落事故、建設用機械の事故と並び、建設業の三大事故の1つに数えられているほど、事故が多いのです。

都道府県や市町村など行政の締めは、3月末の年度末です。
そのため発注された工事は、年度末までに工期を迎えるものが多いです。
年末から年明け、年度末にかけて、建設業は多忙の一途をたどります。

仕事が増え、忙しくなるとどうしても事故が多くなる傾向があります。

土木工事では、毎日のようにショベルカーが動き、掘削します。
掘削した穴底で、配管をしたり、コンクリートを打ったり、基礎工をしたりの作業があるのですが、やはり十分注意しなければならないのが、土砂の崩壊、または付近の構造物の崩壊です。

安定しているようで、法面はたやすく崩れてしまいます。
構造物も危うく立っているだけという状態もあります。

今回は、掘削作業時の構造物倒壊の事故事例を見てみたいと思います。

参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例

住宅地の擁壁を補強するための掘削工事中に擁壁(ようへき)が倒壊

この災害は、住宅地の擁壁補強工事において、コンクリート打ち作業中、土砂崩壊が発生したものです。

この工事は、高低差のある住宅地の既設の擁壁を補強するため、既設の擁壁の基礎部分を掘削し、新しくコンクリート擁壁を設置するものでした。

作業の計画としては、既設の擁壁の下部を全部掘削すると倒壊するおそれがあったため、片側半分だけを掘削して補強用のコンクリートを打設してから、残りの半分を掘削します。

災害発生当日、ドラグ・ショベルで全体の半分を掘削した時点で、作業者が新しい擁壁の型枠材を固定する捨てコンクリートの使用量を計算したところ、購入した生コンの半分ですむことがわかったので、不在であった現場代理人に相談しないで、予定を変更して残りの部分も全部掘削し、休憩に入りました。

休憩後、既設の擁壁上方にコンクリート打設用ホッパーを取り付けたドラグ・ショベルを配置し、アームを旋回させて、捨てコンクリートを打設しようとしたとき、掘削した地山の法面とその上方の既設の擁壁が崩壊し、作業中の1人が生き埋めとなり死亡した。

この事故の型は「崩壊・倒壊」で、起因物は「構造物」です。

既設の擁壁を補強するため、コンクリート打ちを使用していた時の事故です。
擁壁はその大半が土の中にあり、土によって支えられています。
コンクリートを打つためには、土は取り除かないといけませんが、全て取り除くと、片側は支えを失います。

さらにショベルカーが接近した場所、擁壁に接した土壁の上に配置されたので、擁壁は背面からの圧力を受け、崩れてしまいました。

当初は、掘削は擁壁の半分だけにして、支えとする予定でした。
これを現場作業員が、現場監督の相談もなく、作業方法を変えてしまったのでした。

コンクリート打ちも一度で済むと思ったのかもしれませんが、擁壁が崩れるかもしれないという危機意識は欠如していたようです。

擁壁などの壁は、一見すると自立しているようなので、ちょっとやそっとのことでは倒れるとは思えません。
またショベルカーが土の上を走っても、まさかとてつもない圧力がかかっていると、分かりません。

車体重量が数トンにも及ぶ機械が走っているのです、地面には同じだけの重量がかかり、それが圧力となっています。
地面は果てしなく広く、深く、ぎっしり詰まっているので、変化が目に見えないだけなのです。

今回の事故の法面のように、圧力を支える事ができない場所であれば、力のままに土は押されてしまうのです。
そうして、ただ地面の上に置かれているに過ぎない擁壁は、支えがないまま、押され倒れるのです。

よいと思った作業方法の変更は、大きな被害を生み出してしまいました。

さて、これらを踏まえて、原因を検討してみます。

1.既設の擁壁を移設するなど、移設等倒壊防止対策を行わないまま作業を行ったこと。
2.当初は、擁壁の片側半分のみ掘削する計画だったが、全て掘削する方法に変更したこと。
3.掘削箇所に接近して、ショベルカーを配置し、法面に土圧を掛けたこと。
4.作業員が独断で作業方法を変更するなど、安全管理体制が不十分だったこと。

倒壊が予想されるものは、移設してしまうのが一番です。
しかし、そうできないことも多いので、倒壊防止のための対策をしっかり行わなければなりません。

また、作業員が相談なしに、作業計画を変えるのは、管理体制が不十分だったと言わざるを得ません。
なぜ、この作業方法を行う必要があったのかなど、事前にしっかりと周知するべきでした。

それでは、この事故の対策を検討してみます。

1.擁壁等が倒壊するおそれがある場合は、事前に移設、補強してから掘削する。
2.施工方法の変更にあたっては、危険性など十分に検討する。
3.崩落のおそれのある法面付近に、ショベルカーは配置しない。
4.現場監督は、原則原則現場に常駐する。やむを得ず現場を離れる場合は、代理人を指名する。

作業は、効率だけを求めると、思わぬ事故を引き起こすことがあります。
時として、時間がかかる、手間がかかることもあります。
作業者にとって、それは不満になる時もあります。

しかし、安全上どうしても必要な場合は、作業者にそのことを周知しましょう。
なぜ、擁壁の片側だけ掘削しないのかということを、しっかり理解してもらっていたら、無茶な作業はなかったかもしれません。


さて、もう1件、掘削によって構造物が倒壊した事例を見てみます。

こちらも参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例

基礎用の溝を掘削中、ブロック塀が倒壊

この災害は、建築物の基礎を工事するため、ドラグショベルで溝の掘削作業中に発生したものです。

鉄骨平屋建建築物の新築工事の基礎工事は、ドラグショベルで幅約2.0m、深さ約1.4mの基礎用の溝を掘削するものでした。

敷地の境界には、北西側に金網フェンスがあり、北東側に高さ2.0mのコンクリートブロック塀が長さ11.0m、東側に高さ2.2mのコンクリートブロック塀が長さ17.0mにわたり設置されていました。

災害発生当日、午前中は敷地の境界線の内側を北西側から北東側に向かって、ドラグショベルで幅約2.0m、深さ1.1mから1.4mの基礎用の溝を掘削していました。

午後から東側を終了した後、北東側の端から南側に向かってコンクリートブロック塀にそって同様に17.0m位掘削を進め、コンクリートブロック塀の終点付近まで掘削しました。

そのとき、高さ2.2mのコンクリートブロック塀が突然、南東側の端から北東側と北西側の2つの面にわたって崩れ、東側が約17.0m、北側が約11.0mにわたって倒壊しました。

北側にいた4名の作業員らがコンクリートブロック塀の下敷きになりました。

この事故の型は「崩壊・倒壊」で、起因物は「構造物」です。

コンクリートブロック塀のすぐ側を掘削していたら、塀が崩れてしまった事故です。

先の事例の擁壁も同様ですが、塀は地中に埋まっている部分が支えとなり、立っています。
そのため、周りの土を除いてしまうと、ただ立っているだけなのです。
支えとなるのは、わずか20センチにも満たないブロックの幅だけです。
この状態だと、ほんのちょっとしたこと、風が吹いただけでも、バランスを崩してしまうのです。

基礎用に溝を掘っていた際の事故ですが、掘った場所がよくありませんでした。
どうしても設計上、ブロック塀の側を掘らなければならないにしても、しっかり倒壊防止対策を行うべきものでしたが、この事故では塀のことはすっかり頭から抜けていた作業方法のように思えます。

作業計画自体が、コンクリートブロック塀の自立をあてのしており、安全意識が抜けていたのではないかと思われます。

さて、これらを踏まえて、原因を検討してみたいと思います。

1.コンクリートブロック塀のすぐ側まで掘削しており、塀の安定が崩れたこと。
2.コンクリートブロック塀の倒壊防止対策を何も行っていなかったこと。
3.倒壊するおそれのある場所に、作業員を配置していたこと。

掘削した溝の中で、4名の被災者は作業を行っていました。

事故後に考えるととても恐ろしいことですが、現場では何の恐れもなく作業していたと思われます。

危険が予想されることに対して、対策し、作業員が被災しないようするのは、作業計画を立てる上で、非常に重要です。
そして、作業計画をもとに、作業手順を守らせや安全対策を行わせることが、現場では大切なことなのです。

それでは、事故の対策を検討してみたいと思います。

1.コンクリートブロック塀のような構造物付近での掘削作業にあたっては、事前調査や、
 必要に応じて試掘を行うなどして、現場をしっかり確認し、作業計画を作成すること。
2.コンクリートブロック塀の補強として、土止め支保工や控えを設置する。
 もしくは、作業中だけ一時的にコンクリートブロック塀を撤去する。
3.倒壊するおそれのある場所には、作業員を立ち入らせない。

事前の調査では、どのように作業するのかと同時に、安全対策をしっかり検討しなければなりません。
安全対策を盛り込んだ作業計画を立て、作業員が実際に行う作業手順に落とし込みます。

この中には、今回の事例であれば、土止め支保工や、作業員の立入禁止箇所、ショベルカーの配置箇所などの安全対策を盛り込みましょう。

しかし、ただ手順を示しただけでは、作業員の理解は不十分です。
なぜなら、現場では作業を効率的に進めることが優先されるからです。
作業優先のあまり、安全対策が省略されることも、よくあることです。

安全対策を省略させないためには、「なぜこの対策を行うのか」という理由を示しましょう。

妥当な理由があれば、手間に思うことでも、重要性を認識できるのです。

現場での安全対策は、事業者や職長が強く指導することも必要です。
色々意見されることもあるでしょうが、事故なく作業を進めるためですので、妥協せずに安全対策を指導しましょう。

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