○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

襲いかかる数百キロの振動ローラー

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

(株)HHCの猫井川ニャンは、犬尾沢ガウの指示で、埋め戻し土を締め固める機械を現場から持ち帰り、倉庫に戻す作業を行います。
 
この締め方機は、小型振動ローラーと呼ばれるもので、地面に接するローラーが細かく振動し、土を締め固める機械です。取っ手が付いているので、手で動かせますが、その重量は数百キロにも及びます。

この機械をトラックに乗せて、現場から運び込み、倉庫に下ろすのです。

今回は、いつものパートナー、保楠田コンはいません。
保楠田は、トラックにに乗った猫井川を見送り、現場で作業を行っています。

猫井川1人での作業になります。
猫井川は、床上操作式クレーンと玉掛けの資格を持っているので、こういった倉庫での作業にはうってつけなのです。

1人作業で、少し寂しい猫井川。
なぜか独り言も多くなります。

「今日は~、1人でおっしっごと♪
 
 1人で作業を任せるようになったのは、犬尾沢さんも、少しは認めてくれるようになったのかな。
 まあ、俺もしっかりしてきたから、認めざるをえないかもしれけどね。
 
 それにしても、この前の兎耳長さんにはびっくりしたなー。
 まさか、ボクシング経験があったなんて。
 普段からは考えられないくらい、ものすごく早い動きだったし。
 謎が多い人だ。」

倉庫でトラックを降りて、シャドーボクシングの真似事をする猫井川。
その後姿は、ちょっとした中二病を患っているのではと思わせます。

普段、振動ローラーは、倉庫の中でも少し奥にある、機械置き場に保管されています。
この場所まで、天井クレーンで振動ローラーを運ばなければなりません。

猫井川は天井クレーンのリモコンを操作し、トラックの真上までクレーンを移動させました。

もちろん、クレーンから垂れ下がったリモコンを、ボクシングジムにあるパンチングボールに見立てて、パンチを繰り出したり、パンチを避けたりする動きも怠っていません。

さて、トラックの荷台にある振動ローラーのところまで、クレーンのフックを下ろしました。
そのままでは吊上げるのは難しそうなので、ナイロンスリングでローラーを玉掛けすることにしました。

重心はどこかを見定めながら、ハンドガイド部と本体にナイロンスリングを掛けます。

玉掛けが終わったら、ナイロンスリングをクレーンのフックに掛け、猫井川はいったんトラックの荷台から降りました。
吊上げは、荷台から降りて、安全なところで行うつもりなのです。

「バランスはちゃんと、とれてるかな?
 ちょっと吊って見てみようかな。」

クレーンのリモコンを操作して、少しだけクレーンを巻上げました。

ゴゴゴッと音を立てて、少しずつクレーンのチェーンは巻上げられていきます。
それに伴い、振動ローラーも浮き上がってきます。

この振動ローラー少し浮き方に偏りがあるようです。
猫井川も少し気になりましたが、地切(少しだけ浮かせてバランスを見る)で、チェックすればと思っていました。

振動ローラーが完全に地を離れた瞬間。

突然、振動ローラーが横に振れて、猫井川に迫ってきました。

猫井川はさっきまでやっていたボクシングの真似事さながらの避けを行う暇もありません。

ぶつかる

その瞬間、ガゴーンと音を立てて、振動ローラはトラックのアオリ(荷台の側板)にぶつかったのでした。

猫井川、危機一髪。

もし、トラックの上にいたら激突していました。
もし、トラックのアオリがなかったら、顔面にあたっていました。

世界が止まるとはこのことでしょう。
猫井川の四方10メートルは、沈黙の世界となっています。

自分の世界に戻ってきた猫井川は、汗を拭いつつ、また振動ローラーを下ろしました。

「やばい、さっきのは死ぬかと思った。
 いきなり迫ってきたら、避ける暇なんてないのに、兎耳長さんはよく避けられたな。」

どうやら、荷振れした原因はナイロンスリングを掛けた際に、重心が偏っていたからのようでした。

再度、ナイロンスリングを掛けます。
今度は、慎重に重心を見極めて、掛けました。

玉掛けが終わると、またトラックの荷台から降り、さっきよりも離れた場所でクレーンの操作を行いました。
またジワジワとクレーンを巻上げます。

少しずつ地を離れていく振動ローラー。今度は水平を保っています。

5センチ程浮かせても、横に振れることもありません。
地切チェックは、無事パスしました。

ホッと息をなでおろし、いつもより慎重にクレーンを操作し、振動ローラーは所定の位置まで運び終えました。

無事に振動ローラーを下ろし、ナイロンスリングを外している時に、猫井川の携帯が鳴りました。
犬尾沢からのようです。

「おう、猫井川。もうローラーは降ろした?
 トラックに乗って、また現場に戻ってきて。」

犬尾沢の現場への帰還命令を受け、一仕事と終えた猫井川は現場に戻ります。

現場に着いて、トラックから下りると、犬尾沢が近づいてきました。

「猫井川、次の作業だけど・・・・
 
 なあ、トラックの荷台ぶつけた?」

低いトーンの犬尾沢の問いかけ。
猫井川が焦ってトラックの荷台を見ると、そこにはさっき振動ローラーをぶつけた跡が、しっかりと残っていまいした。

「注意して、吊れや!!」

犬尾沢の雷が落ちてきました。

この雷も、華麗にかわすわけにはいかなかったようです。

どうやら猫井川は、兎耳長と同じようにはならなかったようですね。

今回は、重量物を玉掛けし、吊り上げた時に起こりがちなヒヤリハットです。

形が棒状や四角などわかりやすい形をしていると、重心の位置は当たりをつけやすくなります。
しかし、吊り上げるもの、特に機械などであれば、どこが重心かを判断するのは困難になります。
そして機械などを運搬することは、実際のところ少なくありません。

とはいえ、機械にはフックをかける用に輪付きのボルトが付けられているものもあり、そういった場合は迷わずに済むのですけど。

玉掛けとは、ワイヤロープやナイロンスリングなどの繊維ロープを使って、荷物をくくり、吊り上げる作業です。
その際に重要なのは、ワイヤロープ等が外れない、切れないこととともに、吊った荷物がバランスを崩して落下しないようにすることです。

ハンドガイド付きの小型振動ローラーであれば、重心はローラーがある側です。

小型振動ローラー2

それは、機械全体のセンター位置ではなく、ずいぶん偏っているのが分かります。

この重心をとらえ、それに合ったワイヤロープを掛けるのです。

しかし、見ただけで重心を捉えることは困難です。
本番の吊上げの前には、荷物の安定度をチェックします。
これを地切といいます。

地切とは、5センチ程度浮かせてみて、重心の偏りをチェックし、微調整することです。

猫井川に小型振動ローラーが襲ってきたのは、この地切を行っている最中でした。

地切で襲いかかってきたのですから、そもそもかなり重心は傾いていたのでしょう。

この場合は、先にナイロンスリングの張り方もチェックするべきだったかもしれません。
地切して動くのですから、ナイロンスリングの緊張の仕方も、一方だけ非常に張っていたと想像されます。
ナイロンスリングの張り、緊張している状態で、一旦停止し、偏りがないかをチェックする。

地切の前のチェックとして、これも大切なことですね。

さて、今回のヒヤリハットをまとめたいと思います。

ヒヤリハット 振動ローラーをトラックから降ろそうとしたら、横振れして、アオリにぶつかった。
対策 1.機械の形状から、重心位置の当たりをつける。
2.地切時に、完全に浮かせる前に、一旦停止し、ナイロンスリング等の緊張状態を確認する。

複雑な形状のものは、地切で偏りをチェックは重要です。
地切状態で、荷物が動き出すというのは、完全に傾いていたに違いありません。
猫井川の、玉掛けは完全に重心を見誤っていたといえます。

今回はトラックのアオリにぶつかったので、ヒヤリハットで済みましたが、これがまともにぶつかったとなると、かなりの怪我になるのは間違いありませんね。

1人作業で、気も抜けていたのかもしれませんが、とても怖いですね。

ヒヤリハットは、事故にはならなかったけども、怖い体験のことです。
怖いことは繰り返さない、これが重要です。
それが身近なことであれば、あるほど我が事として捉えられるんですね。

猫井川は、今回も犬尾沢の雷が落ちました。

この怖い思いも、次同じようなことを繰り返さない反省になっていくんですね。

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