○安衛法と仲良くなる通達・ガイドライン

悪天候時にできること

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移動式クレーンなどを使用する建設業は、屋外で作業することが多いです。
屋外での作業の時、最も仕事に影響をあたえるものがありますが、分かりますでしょうか?

それは、天気です。

台風の時には作業はできません。
台風でなくとも、強風が吹いているときにクレーン作業を行うと、荷物が大きく振れて、ぶつかったり、落下したりしますね。
大雨の時に、電線作業を行うと感電する可能性が高くなります。

そのため、土木工事などは、雨が降ったら作業中止になることも多いようです。

台風やゲリラ豪雨、大雪など、注意報はともかく、警報が出た時には作業をストップします。
こればっかりは仕方がありませんよね。

しかし、ちょっとした雨程度ならば、作業を中止することは少ないです。
工期や予定などが詰まっているわけですし、作業をストップするとその日使用する機械のリース代や作業員の人件費などが、無駄になってしまします。
ですから、余程のことがなければ手を止めるわけにはいきません。

作業ストップの判断には、気象庁が発表する、注意報や警報は作業を判断する場合の目安になります。

また一方で、安衛法では、条文で大雨等時の作業は行わないことと規定している作業も少なくありません。

例を挙げると、2メートル以上の高所作業は、悪天候時には中止です。

【安衛則】

(悪天候時の作業禁止)
第522条
事業者は、高さが2メートル以上の箇所で作業を行なう場合において、
強風、大雨、大雪等の悪天候のため、当該作業の実施について
危険が予想されるときは、当該作業に労働者を従事させてはならない。

強風、大雨、大雪等の悪天候時には作業を中止しなければならないとあります。
台風の時に、駅のホームなどの端に立つことを想像してみてください。
それだけでも、線路に落下しそうな気がしませんか。
足場作業は、これよりも足元が不安定な場所になります。
どれほど過酷な状況下は想像できますよね?

2メートル以上の高所で作業するのですから、強風で飛ばされるかもしれません。
大雨や大雪で滑ることもあります。
いずれにせよ、墜落すると大怪我になりかねないのです。

この大雨などの悪天候の定義ですが、気象庁の大雨警報とイコールかというと、そうではありません。

安衛法では、別の定義があるのです。

特に条文に明記されているわけではないのですが、労働基準監督署からの通達で定義されています。

悪天候の定義は、基発第309号に規定されています。

基発第309号(昭和46年4月15日)

「大雨」 1回の降雨量が50ミリメートル以上の降雨

「大雪」 1回の降雪量が25センチメートル以上の降雪

「強風」 10分間の平均風速が毎秒10メートル以上の風

「暴風」 瞬間風速が毎秒30メートル以上の風

通達文そのままではないのですが、定義としては上記のとおりです。
1回にというのは、どれだけの時間なのかというと判断に迷うところです。
仮に1時間にとすると、かなりの豪雨だと分かりますね。
バラバラバラと叩きつけるような雨音がして、視界も悪くなり、傘を差しても濡れてしまう状態かと思います。
こんな状態で、外の仕事は無理ですよね。

毎秒10メートルの強風とは、気象庁の定義では、大きな木の枝が揺れる、電線が鳴る、傘が差しにくい状態だそうです。
ダンボール程度のものであれば、転がっていきそうな風といえますね。
クレーン作業などしていたら、吊り荷が左右に触れたり、ワイヤーがフックから外れたりするかもしれないので、危なくて仕方ありません。

暴風は台風の時の風です。
大雪は、場所によると思いますが、視界が真っ白になり、駐車している車もすぐに雪に埋もれてしまうほどの量だと言えますね。

どれも、とてもじゃないですが、屋外での作業は難しいです。
特に高所で墜落しそうなところやコンクリート片など飛んできてぶつかる危険がある場所では、作業は中止しなければなりません。

悪天候時に中止しなければならない作業は、クレーンや高所作業だけではありません。
その他にもたくさんあります。

個々の条文までは紹介しませんが、一覧にすると次のとおりです。

悪天候時に中止しなければならない作業一覧

規制する作業 強風 大雨 大雪 条項
型枠支保工の組立等の作業 安衛則第245条
造林等の作業 安衛則第483条
木馬又は雪ソリによる運材作業 安衛則第496条
林業架線作業 安衛則第510条
鉄骨の組立等の作業 安衛則第517条の3
鋼橋の架線等の作業 安衛則第517条の7
木造建築物の組立等の作業 安衛則第517条の11
コンクリート造の工作物の解体等の作業 安衛則第517条の15
コンクリート橋の架線等の作業 安衛則第517条の21
高さ2メートル以上の箇所での作業 安衛則第522条
足場の組立等の作業 安衛則第575条の7
クレーン作業 クレーン則第31条の2
クレーンの組立等の作業 クレーン則第33条
移動式クレーンの作業 クレーン則第74条の3
デリック作業 クレーン則第116条の2
デリックの組立等の作業 クレーン則第118条
屋外エレベーターの組立等の作業 クレーン則第153条
建設用リフトの組立等の作業 クレーン則第191条
ゴンドラを使用する作業 ゴンドラ則第19条

暴風の欄はありませんが、台風の時に作業をするのは、いかに無謀かは分かるかと思います。
台風の時に、サーフィンに行く、というくらい危険だと思っていただけばと思います。
個人でも無茶だと思いますが、仕事で、自分のみならず周りにも影響を及ぼすとなると、作業を行なわない方がいいです。

足場やクレーンなど、物を組み立てたりする作業は基本的に禁止ですね。
クレーンなどの吊り荷作業は、強風の時のみ中止です。
雨の時は、中止しなければならないとは規定されていませんが、ワイヤーが滑るなどの可能性を考えると、避けるほうがいいでしょう。

視界も悪い、雨音で声も聞こえにくい状態では、作業などできようはずがありません。

さて、悪天候とともに屋外作業で影響を与えるものが、もう1つあります。

それは、地震ですね。

昨今では、御嶽山の噴火もあり、火山の噴火も恐ろしい自然災害ではありますが、火口付近での行う作業は、稀であると思うので、定義されていません。
当然ですが、噴火の傾向がある場合は、気象庁より立ち入りが制限されますので、その指示に従いましょう。

さて、地震に戻ります。
地震は、前触れもなく揺れるので、揺れたら即作業は中断します。
しかし微震程度で、手を止めたりはしないはず、体に大きな揺れを感じた場合であると思います。

安衛法では、地震の際の対処として、揺れた後に設備等に不具合がないか点検することと定義されているものがあります。これは先に紹介した悪天候の後でも行います。

足場等であれば、地震で足元が崩れているのに、そのまま使うと転倒するかもしれません。
そういった点検を行います。

しかし地震といっても震度1や2程度の揺れでは、影響はありません。
点検を行う目安は中震以上というものです。

中震とは何か。

こちらも基発で定義されています。

基発第101号(昭和34年2月18日)

中震以上の地震
震度階級4以上(計測震度3.5以上)の地震

震度4以上の地震ですね。これくらいの震度だとはっきりと揺れを感じますし、乗り物の中でも揺れを感じます。
家の中だと、食器棚の中の食器が音を立てて揺れる程だそうです。

よほど鈍感でない限り、「あ、地震だ!」と感じる揺れ以上ということです。

このような揺れがあると、設備に異常をもたらす可能性があります。
そのため、悪天候時と中震以上の地震の後には、施設の点検を行わなければなりません。

悪天候・天災後に点検が必要な作業の一覧

作業の措置 強風 大雨 大雪 暴風 地震 条項
明かり掘りにおける地山の点検 安衛則第358条
土止め支保工の点検 安衛則第373条
ずい道等の建設作業における地山の点検 安衛則第575条の8
ずい道等の作業における可燃性ガスの濃度測定 安衛則第382条の2
ずい道支保工の点検 安衛則第396条
採石作業前の地山等の点検 安衛則第401条
林業架線設備の点検 安衛則第511条
足場の点検 安衛則第567条
作業構台の点検 安衛則第575条の2
ジブクレーンのジブの固定等の措置 クレーン則第31条の3
屋外クレーンの点検 クレーン則第37条
移動式クレーンのジブの固定等の措置 クレーン則第74条の4
デリックの破損防止等の措置 クレーン則第116条
デリックの点検 クレーン則第122条
屋外エレベーターの倒壊防止措置
(瞬間風速35m/s以上)
クレーン則第152条
屋外エレベーターの点検 クレーン則第156条
建設用リフト倒壊防止措置
(瞬間風速35m/s以上)
クレーン則189条
建設用リフトの点検 クレーン則第194条
ゴンドラの点検 ゴンドラ則第22条

クレーンや足場などは強風に提供されますが、地震の後に点検するものの多いですね。

これらの点検を疎かにすると、地震でボルトが外れているなどが原因で、倒壊することもあります。
必ず点検するとともに、あとから確認するために記録に残しましょう。

自然災害は、人の手ではどうしようもなく、いつでも起こりえます。
屋外での作業は、天気や自然の影響からは逃れられないのですから、それらを前提として作業していく必要があります。

確実にコントロールできることは、作業の方法や実施有無、そして事が済んだ後の対処だけです。
しかし悪天候時に作業を中止する、悪天候や地震のあとに、確実に点検するだけでも、事故を防ぐことはできるのです。

自然相手にできることなど限られています。
人の手では地震を止めることも、雨を止めることもできません。
だから、できることを確実にやりましょう。
それが、屋外作業を行うにあたって、とても大切なことです。

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