コラム
厚生労働省労働局長登録教習機関
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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。
| (株)HHCの犬尾沢ガウが率いる作業チームの今日の仕事は、河川で仮設工事です。 河川の堤防作りが本工事ですが、作業する間は、作業現場に水が来ないようにしなければなりません。 そのために1袋が約1トンもの土を詰めて作る、大型土のうを川に配置していくのです。 大型土のうは全部で50袋ほど作る予定です。 作業は犬尾沢のチーム、兎耳長ピョン、保楠田コン、猫井川ニャンで行います。 犬尾沢は、作業に先立って、全員に段取りを説明します。 「俺と保楠田さんで土のう作りを行います。 今回、土のうの移動には、25トン吊りのクレーン車を準備しています。 クレーンオペレーターとも打ち合わせを行い、作業開始です。 グオングオンと音を立てながら、保楠田が運転するショベルカーが土を掻き上げます。 その間、兎耳長と猫井川は河川内に降り、土のうを置く場所の確認を行いました。 「兎耳長さん、この当たりから順番に置いていけばいいんですか?」 猫井川の問いかけに、兎耳長は無反応です。 「兎耳長さん?」 ちょっと大声で、声をかけると、ようやく反応がありました。 「どうも、最近耳が遠くてねー 兎耳長は、ちょっと間延びした感じで返事をします。 「この当たりから置いていけばいいですか?」 猫井川は、ショベルカーの音に負けないくらい大きな声で聞きました。 「うん、それでいいと思うよ」 今度は兎耳長に、届きました。 「じゃあ、最初の土のうから呼び込みますよ!」 兎耳長がうなづくのを確認して、猫井川はクレーンオペレーターに土のうを吊上げるように、合図しました。 「オーライ!オーライ! 猫井川は無線でオペレーターに合図し、最初の土のうを配置しました。 「兎耳長さん!次はどっちに置きましょう?」 大きな声で、兎耳長に確認を取りながら、土のう設置は進んでいきました。 ・・・ また1つ土のうが置かれ、1段目の設置が終わりました。 「次の土のうを運びます。」 少し疲れ気味の声で、猫井川は合図します。 「兎耳長さん。次はまた1番の上に、土のうを置くので、そっちは危ないですよ。」 猫井川は、兎耳長に声をかけましたが、目はクレーンと土のうに向いていました。 「そのまま、スライ!スライ! 土のうを見つめたまま合図し、誘導していきます。 「そのまま右ー!」 そう指示して、猫井川が設置場所に目を向けた時、兎耳長が吊り荷の先で立っているのが見えました。 このままでは当たってしまう! 「兎耳長さん、危ない!当たる!どいて!」 大声で猫井川が叫びました。 間に合わない!ぶつかる! 吊り荷がぶつかりそうになった瞬間、兎耳長は普段からは考えられないようなスピードで、荷物をかわしたのです。 何の障害物もなかったように移動する土のう。 「兎耳長さん、大丈夫ですか? 信じられないものを見た猫井川は、兎耳長に立て続けに質問します。 「いや~、昔ボクシングやっててね。」 兎耳長はいつものように、間の伸びた答えを返しました。 「そうなんですか。 猫井川の肝を冷やしたやら、驚いたやらの感情は、一気に冷静になりました。 「ボクシングやってたんですね。 普段のゆっくりとした言動からは想像できないボクサー兎耳長。 |
今回は、兎耳長さんのヒヤリハットということで、紹介しました。
本人のヒヤリよりも、一緒にいた猫井川がヒヤリとしたような気もしますが。
クレーンを扱っている時に起こりうる事故には、いくつかパターンがあります。
能力以上の重量を吊ろうとして、クレーンが転倒してしまう事故。
吊り上げたものが引っかかたり、ワイヤーが切れて、荷物が落下する事故。
そして、今回のヒヤリハットで紹介したような事故、つまり吊り荷に激突される事故です。
クレーン作業は、重量物を吊上げ、任意の場所に移動させます。
その作業には、クレーンを作業するクレーンオペレーターの他にも、荷物にワイヤーを掛ける玉掛け、合図誘導する人、設置場所で荷物が振れないように支える人などが当たります。
どんな重量物であっても、空中にある間はその重さを感じさせません。
実際、1トンもの重量物が、吊られていると、少しの力で押すと動くのです。
摩擦がないから当然なのですけども。
また空中での移動速度は非常にゆっくりです。
その速度は人が歩くよりも遅いくらいなのがほとんどでしょう。
速度が遅いと、どんな重いものでも、手で止めらるのではないかと錯覚を覚えてしまいます。
当然ですが、質量が大きいので、ゆっくりなスピードであっても、人を吹っ飛ばすエネルギーはあるので、注意しなくてはいけません。
つまり、クレーン作業で吊り荷に激突されると、かなりのダメージを受けてしまうということです。
このような接触、激突事故は吊り荷の導線上にいる、なた荷物見ていないことにより、起こります。
その他では、周りの誘導ミスというのも大きな要因になります。
また、吊り荷が頭の上を通過して、頭にぶつかりそうになるというケースも少なくありません。
ぶつかれば、大きな事故になります。
クレーンに吊られているだけの荷物は、「おっと危ない、避けなきゃ」とは、決して思ってはくれないのです。
兎耳長のように、華麗にかわすなんてのは、通常あり得ないことなのです。
兎耳長は、ちょっと耳が遠くて、指示が聞こえていなかったから、ぶつかりそうになったようです。
きちんと危険箇所に人がいないことを確認するのは、大切なことですね。
さて、今回のヒヤリハットをまとめたいと思います。
| ヒヤリハット | 移動式クレーンで吊り荷を移動させていたら、ぶつかりそうになった。 |
| 対策 | 1.吊り荷が移動する導線上や危険箇所の立入りを禁止する。 2.合図者は、周囲の状況と吊り荷の両方を見て、誘導する。 3.合図者以外も、吊り荷から目を離さない。 |
吊り荷作業での激突事故を避けるためには、危険箇所への立入禁止が最も大事です。
危険な場所には、近づかせない。
そのためには、作業範囲や人員配置の計画をしっかり立てなければなりません。
合図を行う人以外の作業員も、ぼーっとしていてはいけません。
事故を起こすと困るのは自分なのですから、荷物が吊上げられている間は、目を離さずに注目していましょう。
兎耳長さんが、昔ボクサーだったということは、どうやら猫井川に限らず、みんな知らなかったようです。
迫り来る荷物は、ボクサーならかわせるというものではありません。
そもそも、迫り来る場所にいること自体が、ダメなのです。
危ないなと思ったら、事前に危険の芽をつむこと。
これが現場でできる安全管理ですね。