○安衛法と仲良くなる移動式クレーン作業

移動式クレーンの自主点検

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移動式クレーンを安全に使用するには、何よりもまず機械が正常に動くということが大切です。

どこかが調子が悪い、故障しているという状態で使っていると、作業している時に危険!ということもありえます。
またいざ使おうとしたら、故障していて使えなかった、ということも経験があると思います。

正常かどうかを確認するためには、定期的に点検することが大切です。
点検することで、故障している箇所を発見し、早期に対応することができます。

今回は、移動式クレーンの自主点検についてまとめたいと思います。

当然ですが、点検は何も移動式クレーンに限ったことではなく、ほぼ全ての機械について行う必要があるのだと覚えておいてくださいね。

症状の大小はあれ、機械なので故障は常に付きまといます。

正常な機械は、事故予防になります。
逆に言うと、機械に故障があると、それが原因で大きな事故を引き起こしてしまうこともあります。

自主点検は、事故を防ぐためのものであり、作業者の身を守る者でもあるのです。

自主点検とは、文字通り、自主的に行う点検のことです。
では自主的でない点検というのはあるのでしょうか?

実は、あります。

それは、性能検査というものです。
移動式クレーン等の特定機械は、製造から使用まで、事細かに検査を受けます。
検査を受けることにより、検査証を受けるのですが、これには有効期間があります。
検査証の有効期間を延長するには、性能検査を受けなければなりません。
性能検査は、労働基準監督署もしくは特定の検査機関による検査なので、強制の法定検査とも言えます。
車の車検と同じようなものですね。

ただし、性能検査が義務付けられているものは、吊り荷重が3t以上の移動式クレーンに限ります。
吊り荷重が3t未満の移動式クレーンは、自主検査のみとなります。

自主点検は、この検査ほどではないものの、義務化されているので、自主だからやってもやらなくてもいいというものではありません。
この点は、注意しましょうね。

自主点検については、安衛則第45条で規定されています。

【安衛法】

(定期自主検査)
第45条
事業者は、ボイラーその他の機械等で、政令で定めるものについて、
厚生労働省令で定めるところにより、定期に自主検査を行ない、
及びその結果を記録しておかなければならない。

2 事業者は、前項の機械等で政令で定めるものについて
  同項の規定による自主検査のうち厚生労働省令で定める
  自主検査(以下「特定自主検査」という。)を行うときは、
  その使用する労働者で厚生労働省令で定める資格を有するもの
  又は第54条の3第1項に規定する登録を受け、他人の求めに
  応じて当該機械等について特定自主検査を行う者
  (以下「検査業者」という。)に実施させなければならない。

3 厚生労働大臣は、第一項の規定による自主検査の適切かつ有効な
  実施を図るため必要な自主検査指針を公表するものとする。

4 厚生労働大臣は、前項の自主検査指針を公表した場合において
  必要があると認めるときは、事業者若しくは検査業者又は
  これらの団体に対し、当該自主検査指針に関し必要な指導等を
  行うことができる。

自主点検対象は、ボイラーや移動式クレーン等の特定機械に限りません。
中には特定の機関によって、自主検査を行いなさいというものもあります。

それらについては、追々書いていきますが、今回は移動式クレーンについてのみまとめます。

移動式クレーンの自主点検は、クレーン則に規定されています。

【クレーン則】

第3節 定期自主検査等

(定期自主検査)
第76条
  事業者は、移動式クレーンを設置した後、1年以内ごとに1回、
  定期に、当該移動式クレーンについて自主検査を行なわなければならない。
  ただし、1年をこえる期間使用しない移動式クレーンの当該使用しない期間に
  おいては、この限りでない。
 
  2 事業者は、前項ただし書の移動式クレーンについては、
    その使用を再び開始する際に、自主検査を行なわなければならない。
 
  3 事業者は、前2項の自主検査においては、荷重試験を行わなければならない。
    ただし、当該自主検査を行う日前2月以内に第81条第1項の規定に基づく
    荷重試験を行った移動式クレーン又は当該自主検査を行う日後2月以内に
    移動式クレーン検査証の有効期間が満了する移動式クレーンについては、
    この限りでない。
 
  4 前項の荷重試験は、移動式クレーンに定格荷重に相当する荷重の荷をつって、
    つり上げ、旋回、走行等の作動を定格速度により行なうものとする。

第77条
  事業者は、移動式クレーンについては、1月以内ごとに1回、
定期に、次の事項について自主検査を行なわなければならない。
ただし、1月をこえる期間使用しない移動式クレーンの
当該使用しない期間においては、この限りでない。

  1)巻過防止装置その他の安全装置、過負荷警報装置その他の警報装置、
   ブレーキ及びクラッチの異常の有無

  2)ワイヤロープ及びつりチエーンの損傷の有無

  3)フック、グラブバケット等のつり具の損傷の有無

  4)配線、配電盤及びコントローラーの異常の有無

2 事業者は、前項ただし書の移動式クレーンについては、
  その使用を再び開始する際に、同項各号に掲げる事項について
  自主検査を行なわなければならない。

(作業開始前の点検)
第78条
  事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行なうときは、
その日の作業を開始する前に、巻過防止装置、過負荷警報装置
その他の警報装置、ブレーキ、クラッチ及びコントローラーの
機能について点検を行なわなければならない。
(自主検査の記録)
第79条
  事業者は、この節に定める自主検査の結果を記録し、
これを3年間保存しなければならない。
(補修)
第80条
  事業者は、この節に定める自主検査又は点検を行なった場合において、
  異常を認めたときは、直ちに補修しなければならない。

移動式クレーンの自主検査には、大きく3種類あります。

1. 1年以内に1回行う点検(年次点検)
2. 1ヶ月以内に1回行う点検(月次点検)
3. 作業開始前の点検(作業前点検)

当然ですが、それぞれで点検する項目は、やや異なります。

年次点検では、全ての機能や安全装置が正常に動くかのチェックは当然行います。
中でも、年次点検の時のみ行うものは、荷重試験です。

荷重試験は、移動式クレーンの核とも言える機能、きちんと吊り上げ能力の試験です。
規定未満の重さにしか耐えられないとなると、当然試験には通りませんし、現場で使用することもできません。

この試験は、性能検査で必ず行います。
第76条の3項に「第81条第1項の規定に基づく」とあるのは、性能検査と同様の試験を行うということです。

この年次点検で、荷重試験を行うには、それなりの設備が必要になります。
また全体的にしっかり細かく点検も行うので、自社で行わず、多くの事業者では、車検とあわせて整備会社に点検を委託するケースが多いのではないでしょうか。

月次点検は、巻過防止装置などの安全装置、過負荷警報装置などの警報装置、ワイヤーの状態、フックなどの吊具、操作部など、クレーン全体の状態確認がメインです。

実際に動かしてチェックするものが多く、少し時間をとり、しっかりとした点検が必要になります。
職長やクレーンオペレーターなど、使用に慣れている人が行うとよいでしょう。

1つ注意点があります。
月次点検を毎月実施しており、正常な機能を保っているので、年次点検は免除、ではありません
月次点検は月次点検として、年次点検は年次点検として、どちらも行うことが義務付けられているので、注意しましょう。

もう1つの自主点検は、作業前点検です。
巻過防止装置や、警報装置、操作系など、目視や簡単な操作を中心とした点検です。
実施するのは、職長やクレーンオペレーターなどですね。

安全装置としての点検は、巻過防止装置です。過負荷防止装置は作業前の点検は求められていません。
巻過防止装置は、全ての点検でチェックします。

現場作業の前に行う点検ですので、そんなに時間をかけてられません。
簡単なチェックになることが多いです。

各自主点検の時間の掛け方としては、次のとおりですね。

年次点検(1日~数日) > 月次点検(数十分) > 自主点検(数分)

点検は行いっぱなしでは、ダメですね。
必ず実施記録を残さなくてはなりません。

大体の場合において、チェックシートなどの点検簿を使用されているのではないでしょうか。
この記録は、3年間は保存しなくてはならないので、ファイルしておきましょう。

さてこの記録簿について、うちの会社でもチェックシートを用いています。
なるべく面倒くさいことはやりたくないという現場の声と、義務なので点検を実施しろという事業者側の声が入り混じり、チェックシートを作りました。
また修正していくことになりますが、どのような内容、形にするかは頭を悩ませます。

改めて、自社のチェックシートを見てみますと、こんな項目です。
「巻過防止装置 作動」とあり、チェックを入れるようになっています。
簡素すぎて、分かりづらいと思うのですが、皆さんのところでは、どんな感じでしょうか?
ちょっとアレンジしてみようかと考え中です。

それは、さておき。
もし点検で、不具合を見つけた場合ですが、放置してはいけません。
すぐに補修しましょう。

自社でできるものもあるでしょうが、修理に出す必要がある場合は、すぐに依頼しましょう。

故障を故障のままにして、使用していると、自分だけでなく、周りの人も危険に巻き込みかねません。

実は私の会社でも、先日積載型移動式クレーン(ユニック車)でこんな故障がありました。
作業前に点検をしていると、アウトリガー(車体の横から張出し、荷釣り作業を行う際に踏ん張る足)が、収納しているのにロックされず、走行しようとするとはみ出てしまうことが分かりました。

幸い現場に行く前でしたので、すぐに修理に出したのですが、もし気づかず使用していたら、走行中に横に足をはみ出し、対向車にぶつかったかもしれません。
そう考えると、結構ぞっとする話です。

私の会社の機械や車の多くは古いものなので、どこかしら調子は悪いんですけどね。

しかしこのような故障を放置していたがために、起こった事故もあります。

先日、移動式クレーンの事故事例で、巻過防止装置の故障により、ワイヤーが切れ、荷物が落下したという事故を紹介しました。
巻過防止装置は、ワイヤーが収納しすぎることにより、フックとアームの先端が引っかかるのを防ぐための安全装置です。

安全装置とは、これ以上は危険という状態を知らせ、場合によっては動作をストップさせ、事故を防ぐものです。
安全装置が故障、または意図的に効かないようにして作業するのは、大げさに言うと、ブレーキが効かない車に乗るようなもの。
一時期問題になったピストバイクのようなものとも言えます。

人間は、どんなにきちんとしようとしてもミスをします。
うっかりミスなんて、誰でもあります。
砂糖と間違えて塩を入れちゃったとか、スマホと間違えてポケットティッシュを取り出したとか、実害のないうっかりミスは可愛いものだと思います。

ところが、ことクレーン作業などでは、ちょっとしたミスが大災害になる可能性があります。
安全装置は、人がうっかりミスを行うことを加味しています。
そして、そのミスを吸収する役割もあるのです。

うっかりワイヤー巻きすぎちゃった、うっかり定格荷重より重いものを吊っちゃったなどは、気をつけていてもあります。
こういったミスが起こった時に、知らせてくれるのです。

自主点検、特に作業前の点検について、補足があります。
それは、点検は機械だけではないということです。

機械が正常に動くだけでは、事故は防げません。
使い方を誤れば、事故につながるわけです。

そのためには、資格の有無。移動式クレーンの設置、周囲の状況、作業方法の確認、合図のチェックなどを行う必要があります。

移動式クレーンは重量により、資格要件が異なります。
操作者が適した資格または免許を持っているかを確認しなければなりません。

地盤が緩いところでクレーンを配置すると、倒れてしまいます。その場合は、鉄板を敷くなどの対策が必要になりますね。

荷を吊り上げて、旋回するとぶつかってしまう障害物がある。このような場所は避けなければなりません。

作業の手順を知らなければ、荷物が頭上を行き交う場所で仕事をする人がいるかもしれません。

合図が人によってバラバラであれば、意思の疎通ができません。

点検、チェックするべきことは少なくないのです。
しかし、機械の状態を含め、これらのことが全てしっかり行われることによって、事故の可能性を低くすることができるのです。

自主点検は、義務だからやっているというのは確かにあります。
ですが、事故や安全という面から考えると、理不尽でも無茶な要求でもないと理解できますよね。

特定機械は、大きな事故になりかねません。
使用者は、その事故リスクをあることを自覚して、責任ある措置をとらなければなりません。

なるべくならば、作業者に点検も仕事の一環なのですよと理解してもらい、当たり前の点検し、不具合があれば対処するようになると、事故も減るだろうなと思います。

まとめ。

【安衛法】

第45条
事業者は、機械の自主検査を実施しなくてはならない。

【クレーン則】

第76条
  事業者は、移動式クレーンを設置した後、1年以内ごとに1回、
  自主検査を行なわなければならない。
第77条
  事業者は、移動式クレーンについては、1月以内ごとに1回、
自主検査を行なわなければならない。
第78条
  事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行なうときは、
その日の作業を開始する前に、点検を行なわなければならない。
第79条
  事業者は、この節に定める自主検査の結果を記録し、これを3年間保存しなければならない。
第80条
  事業者は、この節に定める自主検査又は点検を行なった場合、
異常があれば、直ちに補修しなけばならない。

 

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